医療逼迫で「命の選択」絵空事ではない 医療の恩恵奪い合う「いす取りゲーム」はすぐそこに

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全国各地で新型コロナの感染者が急増し、対応病床の使用率が急上昇している。切り捨てられる患者も出てくるのではないか。患者にそんな不安が広がる。AERA 2020年12月14日号から。
 医療の逼迫は、患者側の不安もかきたてる。
 日本難病・疾病団体協議会は11月、菅義偉首相らあてに緊急要望書を出した。医療体制の維持を強く求め、辻邦夫常務理事(61)は「通常の診療に影響が出ると命をつなげられなくなる危険がある」と訴える。
 また、全国がん患者団体連合会(全がん連)も同様に菅首相らに要望書を提出した。
 加盟組織の一般社団法人CSRプロジェクト(東京都)は10月、診断から5年以内のがん患者310人を対象にウェブ調査を行った。それによると、治療を受けている患者の4人に1人が、抗がん剤の治療や手術が延期になるなど治療の内容に変更があったという。
 医療の逼迫の先には何が待っているのか。まず起きるのは、医療の恩恵を争ういす取りゲームだ。全がん連の要望書にはこんな切実な文言が盛り込まれている。
「やむを得ず限られた医療資源の選択をせざるを得ない場合に恣意的な判断が行われることがないよう、必要な施策を実施してください」
 15年前に乳がんと診断され、当事者でもある桜井なおみ理事(53)はこう説明する。
「このまま感染者が増えて、『命の選択』をせざるを得ない状況を懸念しています。議論がないままに患者が切り捨てられるような状況は避けていただきたい」
■「最後の砦」提言の重み
 大阪府の吉村洋文知事は11月19日の会見で救急病床の運用について、患者の重症度に基づいて治療の優先度を決定し、選別を行う「トリアージ」という言葉で説明した。医療機関の役割分担について説明したようだが、治療の優先順位を決める言葉に世間はざわついた。
 国内での医療資源の考え方について、立命館大学の美馬達哉教授(医療社会学)は「入り口で優先順位をつけるのはあり得ると思いますが、病院の中に入って治療を始めているのをやめるというのは、日本ではあり得ない」と指摘する。
だが、日本集中治療医学会(理事長=西田修・藤田医科大学教授)は11月、専門誌に「新型コロナウイルス感染症流行に際しての医療資源配分の観点からの治療の差し控え・中止についての提言」を公表した。
 コロナ禍の中、医療資源の配分という考え方から、治療の差し控えや中止がどのように適切に行われるべきかについての提言だ。西田理事長はこう説明する。
「集中治療に従事するスタッフは、重症患者を救命し社会復帰させることを理念に診療を行っている。本来ならこのような提言は出したくないし、不要となることを願っているが、今回、満を持して提言した。命を守る最後の砦となる、いわば本丸の日本集中治療医学会がこの提言を出したことの重みをわかっていただきたい」
 その上で、西田理事長はこの提言に基づいて“命の選択”が行われることは、決して絵空事ではないと考える。特に、集中治療室は冬場、年間で最も患者の多い時期を迎える。
「第3波は時期的に最悪です。日本ではコロナでも集中治療の成績は非常に良いのですが、ハコ(ICUなどの設備)、ヒト(人材)、モノ(人工呼吸器など)の三つのうち、ハコとヒトはとても手薄になっており、患者が増えれば今の好成績は担保されない。集中治療のキャパシティーを超えてしまえば、コロナ以外の患者さんも含めて助かる命も助からなくなる。局地的に私たちの提言を使わざるを得ない状況に追い込まれる可能性があります」(西田理事長)
「この3週間が極めて重要な時期だ」
 菅首相が記者団にこう強調したのは11月26日。どこまでの危機感を持っていたのかは知らないが、すでに折り返し地点に来ている。(編集部・小田健司)
AERA 2020年12月14日号より抜粋