認知症にならないために 医師が実践している予防法は&and進行が速い若年性認知症認知症にならないために

下記の記事は日経電子版からの借用(コピー)です

認知症にならずに元気に過ごしたいというのは、誰もが願うところ。ところが、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、家に閉じこもらざるを得なかった一人暮らしの高齢者を中心に、認知症のリスクが上昇してしまった、と語るのは、『医師が認知症予防のためにやっていること。』(日経BP)という本を執筆した認知症専門医の遠藤英俊さん。遠藤さんによると、定年退職がきっかけで認知症リスクにつながる恐れもあるという。どのような対策をとればいいのか遠藤さんに聞いた。
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家に閉じこもった高齢者に認知症リスクが…
遠藤さんは、「新型コロナウイルス感染症が拡大するにつれ、『離れて暮らす高齢の親が心配です』という相談をよく受けました。認知症の兆候が出ているのではないか、と」と話す。
緊急事態宣言が出され、遠くに住む高齢の親のもとを訪ねられなくなった人は多い。そもそも日本では、一人暮らしの高齢者が増えている。感染症の拡大期では、人との接触が制限され、家に閉じこもらざるを得ない高齢者の認知症リスクは高まるばかりだ。

高齢者のパソコンやゲーム 認知症予防に?
「医学雑誌『ランセット(Lancet)』は2017年に発表した論文で、アルツハイマー認知症の『自分次第で改善できる9つのリスク要因』を明らかにしました(Lancet. 2017;390:2673-734.)。そのうち、高年期(65歳超)では、喫煙、抑うつ、運動不足、社会的孤立、糖尿病の5つがリスク要因となっています。外出できない一人暮らしの高齢者は、このうち社会的孤立や運動不足、抑うつなどのリスク要因を抱え込むことになります」(遠藤さん)
遠藤英俊さんの書籍『医師が認知症予防のためにやっていること。』(日経BP
新型コロナウイルスに感染すると、高齢者ほど重症化しやすく、致死率が高い。また、民生委員などの見回りも制限され、一人暮らしをする高齢者ほど孤立してしまった。
「人間は、誰かと話すことで脳の神経細胞同士のやり取りが盛んになり、特に『前頭前野』という部分が活性化されます。前頭前野は、記憶、学習、コミュニケーションのような高次の機能を担当し、人間らしく生きるために不可欠な部分です。誰とも話さないでいると、前頭前野の活動が衰えてしまう恐れがあるのです」(遠藤さん)
遠藤さんは、離れて住む高齢の親が心配という人には、「毎日電話してあげてください」とアドバイスしたという。
「どうせなら、テレビ電話で話せばなおよいでしょう。高齢者はIT機器なんて苦手と思うかもしれませんが、タブレット端末なら、ATMが操作できれば使えます。そうやって新しいツールを使いこなそうとチャレンジすることも大切です」(遠藤さん)
「定年をきっかけに認知症」に注意
社会的孤立や運動不足、抑うつのリスク要因を抱えてしまうのは、一人暮らしの高齢者だけではない。
「会社や仕事以外に人間関係がないという人が定年退職を迎えたときも、社会的孤立などが心配になります。日常生活で会話をする機会がほとんどなくなり、家でぼーっとテレビを見ているという生活になってしまうと、認知症のリスクが高まります。実際、私が診察した一人暮らしの高齢男性のなかには、何日も会話の機会がない人も珍しくありません。仕事以外に人間関係がない人というのは、その予備軍なのかもしれません」(遠藤さん)
社会的孤立を防ぐには、社会とのつながりを維持することが大切だ。働くことは、社会との接点を持つことにつながる。つまり、定年になっても仕事をゼロにするのではなく、減らしたうえで続けるのがよいという。
「実は私も、2020年3月に長年勤めた国立長寿医療研究センターを定年退職しました。退職後は、いくつかの病院で非常勤で診察をしていますが、週に3日は休んでいます。また、平日は朝5時に起きていたのが、7時起きになり、体はずいぶん楽になりました。年を取って体力は落ちているので、定年を機に仕事量は見直すことをお勧めします」(遠藤さん)
して遠藤さんは、増えた自由時間で新たな活動にチャレンジしている。料理教室に通い始め、またゴルフはレッスンプロについて習う予定だという。
「先日は、イタリア料理のコースに挑戦し、ティラミスも作りました。イタリア料理は、生活習慣病認知症のリスクを低下させる食事だといわれていますので、以前から興味を持っていました。こうやって、自分が興味を持つものに取り組むのが、結果として認知症予防になるのです」(遠藤さん)
社会と接点を持つ活動をしよう、と固く考える必要はない。自分が興味を持った趣味に取り組めば、それが自然と社会的な活動になると遠藤さんは話す。
「もちろん、何か新しいことを始めようとすることがストレスになるのであれば、無理する必要はありません。喫茶店に毎日顔を出して、マスターと話をすることでもいいでしょう。新しい知人を増やすのがおっくうなら、昔からの友人に会うのでもいいのです。肩の力を抜いて、人生を楽しんでください。それが認知症予防につながります」(遠藤さん)
(イラスト:堀江篤史)
遠藤英俊さん
1982年滋賀医科大学卒業、87年名古屋大学大学院医学研究科修了。総合病院中津川市民病院内科部長、国立療養所中部病院(現・国立長寿医療研究センター)内科医長などを経て、国立長寿医療研究センター長寿医療研修センター長および老年内科部長を務め、2020年3月に退職。現在は聖路加国際大学臨床教授、名城大学特任教授。著書は『最新 ボケない! “元気脳”のつくり方』(世界文化社)など多数。認知症、高齢者虐待問題、介護保険関連を専門とする。


進行が速い若年性認知症 早期の発見・治療で抑制

働き盛りの年代で発症する若年性認知症。原因となる疾患や症状は高齢者の認知症と変わらないが、進行が速い、発見が遅れがちといった問題点がある。症状や対策を的確に把握し、早期発見・治療につなげよう。
認知症は、脳の神経細胞が損傷したり、働きが悪くなったりすることで認知機能が低下し、日常生活に支障をきたした状態をいう。高齢者に多い進行性の病気だが、65歳未満で発症すると、若年性認知症と呼ばれる。働き盛りで一家の生計を支えている人が多く、家族への影響や経済的ダメージは計り知れない。
原因となる疾患は様々だ。疾患別にアルツハイマー認知症、血管性認知症、前頭側頭型認知症レビー小体型認知症などに分類される。
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7月に東京都健康長寿医療センター(東京・板橋)が公表した調査結果によると、若年性認知症の国内有病者数は推計3万7800人。最も多いのはアルツハイマー型で52.6%、次いで血管性17.1%だった。
血管性認知症脳卒中の後遺症であるのに対し、アルツハイマー認知症がなぜ発症するかは解明されていない。しかし発症メカニズムとして有力な仮説がある。
アミロイドβやタウという異常なタンパク質が脳に沈着していくことで神経細胞が死んでいき、脳が徐々に萎縮する」。こう解説するのはアルツクリニック東京(東京・千代田)の新井平伊院長だ。「アルツハイマー型の若年性認知症は特に進行が速く、重症化しやすい」と警告する。
アルツハイマー型の症状としてまず現れるのは物忘れ。初期は新しい記憶から薄れていく。やがて言葉が出てこない、よく知っている道で迷う、着替えができない、計算ができない、家電製品の使い方がわからない、好きだった趣味に興味がなくなるといった様々な症状が現れる。
若年性認知症の問題点は、異変があっても本人や周囲が認知症と思わず、発見が遅れがちなことだ。筑波大学精神神経科の新井哲明教授は「年齢からうつ病更年期障害と誤診されることもある。おかしいと感じたら、専門医がいる物忘れ外来や認知症疾患医療センターなどを受診してほしい」と話す。
認知症の多くは今のところ根治できないが、早期発見・早期治療で進行を遅らせることはできる。主に薬を使う治療法は、原因疾患ごとに異なる。どの疾患によるものかを見極めることが重要だ。
新井平伊院長は認知症の前段階である軽度認知障害や、さらにその前段階の主観的認知機能低下という状態に注目する。「アルツハイマー病を引き起こすアミロイドβの脳への沈着は、症状が出る20年ほど前から始まっている」。なるべく早い段階でアミロイドβの沈着を調べて認知症のリスクを判定し、予防・治療に取り組めば、発症が大幅に遅れる可能性があるという。
新井哲明教授によると「糖尿病、高血圧、脂質異常症アルツハイマー病や脳卒中の発症リスクを高める」。特に糖尿病になると、アルツハイマー病になる確率が倍増するという。こうした生活習慣病の予防・改善は認知症予防にもつながる。そのためには、まず日ごろの生活習慣を見直し、バランスのよい食事、適度な運動、十分な睡眠を心がけたい。
たとえ若年性認知症になっても「できるだけ社会的活動を続けてほしい。人と交流し、やりがいを持つことで、残っている脳の機能を長く維持できる」(新井平伊院長)。
若年性認知症は「医療だけでなく、就労支援や介護する家族のサポートなど、包括的なケアが必要」(新井哲明教授)だ。一人で悩まず、まずは専門機関に相談しよう。