コロナ禍「経済優先」したスウェーデンの悲惨&医療崩壊回避 スウェーデンの現状は?

下記の記事は東洋経済オンラインからの借用(コピー)です


死亡率が増え、経済も近隣国同様の状況に
欧州で新型コロナウイルスが出現して以来、スウェーデンは独自の社会実験で世界から注目されてきた。パンデミック中に政府がほとんど行動制限を加えず、通常の生活を続けるとどんなことになるのかは、スウェーデンを見ればわかる。
スウェーデン方式の成果はこうだ。まず死者数がロックダウン(都市封鎖)を実施した近隣諸国を大幅に上回った。そして経済も近隣諸国と似たようなダメージを受けている。
「本当に何のメリットもなかった」と語るのは、アメリカのワシントンDCに本部を置くピーターソン国際経済研究所のジェイコブ・カークガード上級研究員だ。「自ら傷口を広げただけで、経済的に何の得にもなっていない」。
健康を犠牲にしても経済は回復しない
スウェーデンの経験は、スカンジナビア半島から遠く離れた地域とも無関係ではない。新型コロナの感染が恐るべき速度で拡大しているアメリカでは、トランプ大統領に背中を押される形で多くの州がロックダウンを回避したり、時期尚早なタイミングで制限を解除したりした。職場や店舗、レストランに人々が戻れば、経済は回復すると考えたのである。
イギリスでは、自らもコロナに感染して入院したジョンソン首相が7月下旬、経済活動を通常の姿に近づけようとパブやレストランを再開した。
このような政策アプローチで暗黙の大前提となっているのは、政府には国民の生命を守るのと同時に雇用を守る責務があり、これらの間でバランスをとらなくてはならない、という発想だ。経済にとってプラスとなるのなら、ソーシャルディスタンス(行動規制)を緩めて国民の健康が多少犠牲になったとしても、その政策は正当化される、という考え方である。
だが、高い死亡率と他国同様の経済悪化というスウェーデンの悲惨な結果は、「国民の命か、経済か」という選択肢が間違っていることを示唆している。行動を規制しなければ、生命と雇用の両方が犠牲となりかねない。
スウェーデン政府は国民の良識を信じ、行動規制をほとんど加えなかった。レストラン、ジム、店舗、観光施設の営業は許可され、大半の学校が休校措置をとらなかった。デンマークノルウェーはこれとは対照的に厳格なロックダウンを選択。大人数の集まりを禁止し、店やレストランも休業させた。
あれから3カ月以上が経過し、スウェーデンのコロナ死者数は5500人を突破した。アメリカの死者が13万人を超していることを考えれば、それほどひどい数字には見えないかもしれない。しかしスウェーデンの人口は、たったの1000万人なのだ。100万人当たりに換算すると、その死者数はアメリカを4割上回り、ノルウェーの12倍、フィンランドの7倍、デンマークの6倍にもなる。
今年は4.5%のマイナス成長に陥る見通し
スウェーデン方式の結果、死亡率が高まったことは何週間も前からわかっている。ここに来て新たに見えてきたのは、経済に隣国と同程度の打撃が出ているという現実だ。スウェーデンは経済活動に制限を加えなかったにもかかわらず、ビジネスは壊れ、景気が後退している。
スウェーデン中央銀行によれば、同国経済は今年4.5%のマイナス成長に陥る見通し。従来の1.3%成長見通しから大幅に下方修正されている。5月の失業率も9%と、3月の7.1%から跳ね上がった。オックスフォード・エコノミクスは最近の報告書でこう結論づけた。「経済全体に打撃が広がっており、回復にはかなりの時間を要する。失業率も高止まりが続くだろう」。
これはデンマークパンデミックで受けた打撃とほとんど変わらない。デンマーク経済は、同国の中央銀行によると、今年4.1%縮小する見通し。5月の失業率も5.6%と、3月の4.1%から悪化した。
要するに、スウェーデンは期待された経済的なメリットを得ることもなく、圧倒的に高い死亡率を抱え込んだことになる。
新型コロナは国境を越える。スウェーデン政府は国内経済を回す決断を下したが、企業はほかのあらゆる国々に不況をもたらしたのと同じ要因で行き詰まった。そして国民はウイルスに感染する恐怖から買い物を控えるようになった。こうした国民の行動は死亡率の上昇を防ぐほどの効果はなかったが、ビジネス活動の衰退を引き起こすには十分だった。
ここには、おそらく全世界に当てはまる教訓がある。ロックダウンなどの政策を経済悪化の原因と見なすのは短絡的にすぎるということだ。すべての元凶はウイルスそのものにある。アジアからヨーロッパ、南北アメリカに至るまで、パンデミックのリスクはビジネスを混乱に陥れ、政府の政策がどうであろうと人々はショッピングモールやレストランを避けるようになった。
スウェーデンも国際貿易における不測の変化から逃れることはできない。パンデミックが始まった以上、スウェーデンにも経済的なダメージが及ぶのは明らかだった、と前出のカークガード氏は指摘する。
サプライチェーンが寸断され、他国の製造業が操業を停止すると、スウェーデンの製造業も停止した。これは完全に予測できた展開だ」(カークガード氏)
高齢者の買い物自粛が教えること
しかし死者数については、政府の対応次第で結果は変わっていたはずだ。
カークガード氏が言う。「スウェーデン政府には自らの方針を疑問視する声もなければ、対策を見直す意欲もなく、このまま行けば本当に手遅れになる。これは驚くべきことだ。なにしろ、政府の主張する経済的なメリットがまったく存在しないことが明らかになってから、かなりの時間がたっている」。
これに対しノルウェーは、厳しいロックダウンに踏み切ったのが早かっただけでなく、ロックダウンの緩和でも先行した。感染拡大の速度が落ち、政府の検査態勢も大幅に強化されたためだ。
今では、経済も一段と短期間での回復が見込まれるようになっている。ノルウェー中央銀行によると、変動の激しい石油・ガス部門を除く本土経済は今年3.9%のマイナス成長となる見通し。ロックダウン期間中に示された5.5%のマイナス成長予想から状況は大幅に改善してきている。
コペンハーゲン大学デンマーク)の研究者はスカンジナビア地域で最大級の規模を誇るダンスケ銀行のデータを用い、デンマークで経済活動が制限されていた3月中旬〜4月上旬の消費パターンを分析した。これによると、パンデミックの影響でデンマーク人の支出は同期間に29%減少したが、自由を謳歌していたスウェーデンでも消費支出は25%減っていた。
さらに驚くべきは70歳を超える高齢者で、この層ではデンマークよりもスウェーデンのほうが消費の落ち込みが大きかった。スウェーデンでは通常どおりの経済活動が維持されたことから、おそらく外出がことさら危険視される状況が生まれたのだろう。
(執筆:Peter S. Goodman記者)
(C)2020 The New York Times News Services

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病床少なくても医療崩壊回避 スウェーデンの現状は?
カロリンスカ大学病院の宮川絢子医師に聞く

新型コロナウイルスの感染者が急増しているスウェーデンでは、12月下旬時点で人口当たりの感染者数が日本の20~30倍近くに上る。だが人口当たりの病床数は日本の4分の1にもかかわらず医療崩壊は起きていない。大病院がコロナ患者を集中的に受け入れ、他の病院が通常診療を引き受けるなど、柔軟に対応しているからだ。首都ストックホルムの大学病院で働く宮川絢子医師に現状を聞いた。 
(聞き手は社会保障エディター 前村聡)
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――スウェーデンは人口当たりの感染者数が日本を大きく上回っています。医療現場はどのように対応しているのでしょうか。
「カロリンスカ大学病院は約1万5千人の従業員を擁する欧州有数の大学病院の1つ。計1600床あり、春の第1波では約3分の1を感染症治療の病床に切り替えた。集中治療室(ICU)や体外式膜型人工肺(ECMO=エクモ)を使える病床は通常の5倍にし、4月の感染ピーク時にはICUの約150人を含む計約500人が入院した。ストックホルムの感染者の4割を受け入れていたことになる」
「国全体ではICUは通常の2倍にした。4月上旬からの3週間で急激に増やし、最大1100床程度となった。ストックホルムでは600床の野戦病院もつくられたが、既存の病院で対応できたため、使わないまま解体された」
――コロナ対応の病床を増やすと、医師や看護師が不足しませんか?
ICUに携わる医師や看護師を教育し、配置換えして増員した。ICUや救急外来で働く医療スタッフの給与は2.2倍に増やした。中等症の患者は感染症の専門医以外が担当した。私も専門は泌尿器科だが、コロナ対応に当たった。マニュアルに沿って治療し、感染症の専門医が1日1回、回診する際に指示を仰いだ。電話でも相談に応じてくれるため、専門外の医師でも問題なく治療できた」
「航空業界で働く人々は感染拡大で仕事がなくなっていたが、客室乗務員を再教育して病院の業務をサポートしてもらうなど労働力をシフトした。最終学年の医学生もボランティアで手伝った」
――通常の診療はどうしたのでしょうか。
「カロリンスカ大学病院では、難易度の高い手術を並行して実施していたが、通常診療はかなり縮小した。難易度の低い手術などはコロナ対応をしていない病院に委託した。大学病院の抗がん剤治療センターも他の病院に移動した。他の病院に委託しても電子カルテが国内でほぼ共通化されており、委託された病院はこれまでの治療データを把握でき、再検査も不要で治療を継続しやすい」
――ICU感染症治療用の病床はどのように運用していましたか。
「国が中央管理しており、ICU病床に空きがない自治体があれば、自治体の枠を越えて患者を搬送した。第1波のときは週に20~30人ほどカロリンスカ大学病院に搬送されることもしばしばあった。患者だけでなく、余裕のある地方からカロリンスカ大学病院に応援に来るなど柔軟に対応した」
「救急搬送も、各病院で病床の使用状況が時々刻々と変化するため、国が中央管理し、どの病院に搬送するかを救急車に指示した。夏に国内の感染がいったん収束した際は国際協力のため、エクモを装備したジェット機を用意し、欧州からエクモを使う患者を受け入れた」
――感染のピーク時にICUが満床になることはありましたか。
「第1波ではICUが満床になることはなかった。だが入室できる患者は治療の優先度を決める『トリアージ』をしていた。具体的には、ICUが満床でなくても、80歳以上の患者、70代で1つ以上の臓器障害がある患者などはICUで治療を受けられなかった。新型コロナのICU治療は長期間となるため、空床を確保しておかないと救える命を救えないことにもなりかねない。また急いで教育されたスタッフでは満床にすることは事実上難しかった面もある」
――国民はトリアージを受け入れていましたか。
スウェーデンでは平時でも、ICU治療は患者の予後(残りの生存見込み期間)により、ある程度トリアージをしている。例えば若い患者であっても、がんの末期で回復の見込みが低ければ、空床があってもICUで治療は受けられない。年齢で線引きをしているわけではない。夏季休暇の期間中で医療スタッフが減る時期は、ICUで受け入れる患者数はさらに減る」
「逆に救える患者には徹底的に医療資源を投入する。限りある医療資源を有効に活用し、公平に分配するため、通常診療から科学的な根拠(エビデンス)に基づいて『救える命を救う』方針が徹底され、国民の理解も得られている」
「ただ、新型コロナの対応では、満床でないのに年齢によりトリアージしたことに対して批判も出た。そのため第2波ではトリアージは行っておらず、通常診療と同じように患者の状態で判断している」
――現在、再び感染者数や死亡者が増えています。
「10月以降に再び増えて第2波となっている。春の第1波より多くなっているが、PCR検査をする対象を増やした影響が大きい。第1波の当初は入院が必要な患者に絞っており、後半で対象を拡大した。現在は感染者の追跡調査をするとともに、基本的には症状のある人を検査するため、検査件数は週25万件を超えている。人口当たりでは日本の10倍程度となる。感染者は年齢別では20~50代が多い。通常病棟に入院する人は第1波よりやや多くなっているが、ICUに入る人は第1波の半分ぐらいにとどまっている」
「死亡者数も第2波では第1波ほどの急速な増加傾向はない。全期間で死亡者の9割は70歳以上の高齢者だ。第1波では医療の支援や感染防止対策が不十分だった高齢者施設でクラスターが発生し、国全体で見ても平年を上回る『超過死亡』が生じた。だがその後、9月末まででみると、70歳以上の死亡数はほぼ平年並みで超過死亡は生じていない。70歳未満でも第1波を通じて超過死亡は生じておらず、国全体では死亡数は平年より増えていない」
「人口当たりの死者数は日本に比べると10倍以上で世界でも20位台で、近隣の北欧諸国より多い。だがロックダウン(都市封鎖)をした欧州各国と比較すれば多くない。コロナの死亡者数は診断確定後、30日以内に死亡した人をすべてカウントしている。極端に言えば交通事故で亡くなった人も含まれており、多めに集計されている傾向がある。ある地域のカルテ調査では、コロナが直接の死亡原因であったのは15%という報告もある」
――スウェーデンは、集団免疫の獲得を目指したのでしょうか。
「ロックダウンをしないのは、憲法で国民の移動制限ができないと定められていることと、長期間持続可能な政策ではなく、社会への副作用が大きいためだ。『スウェーデンは集団免疫の獲得を目指した』と誤解されているが、そうではない。集団免疫が得られたとしたら、あくまでも副産物でしかない」
――スウェーデンの対策の特徴は何でしょうか。
スウェーデンは第1波では高齢者施設でクラスターを起こしてしまったなど悪い点はたくさんある。だが、あえて強みをいうと、国民の政府への信頼が厚いことだ。各省庁の専門家グループには、ぶれない強いリーダーシップがある。専門家グループは政治からの独立が憲法で保障されている。さらに専門家グループを助ける優れた統計があり、国民もアクセスでき、情報の透明性が高い」
スウェーデンでは日本のマイナンバーにあたる『パーソナルナンバー』が徹底しており、あらゆる情報がひも付けされている。情報はデジタル化されて管理されているので正確な統計を迅速に分析できる」
「第1波では午後2時から省庁代表が記者会見し、情報を隠さずに出した。政府の実施したアンケートでは『省庁の対策を信頼するか』という問いに、半数以上が『とても信頼している』『かなり信頼している』と答えている。公衆衛生庁のトップとして感染対策を率いる免疫学者、テグネル氏に対する信頼は第1波後、全期間を通じて6割以上の信頼を得ている。強いリーダーシップと情報の透明性がスウェーデンの強みといえる」
――今後はどのようになっていくでしょうか。
「感染者が増えたため、現在はソーシャル・ディスタンス(1~2メートル以上)のほか、①8人を超える集会禁止②高齢者などリスクグループの隔離③介護施設への訪問禁止④在宅勤務⑤症状があれば自宅待機――などで対応している。保育園、小中学校は閉鎖していない。美術館やジムは閉鎖されるなど日常生活に規制はあるものの、12月中旬まで、ほぼ通常の生活を送っていた」
「10月以降の第2波で感染者が急増しているため、政府は12月19日に緊急記者会見をした。新たに、①レストランで同席できるのは4人まで②12月24日から飲食店でのアルコール販売は午後8時まで③ショッピングセンターなどは入場最大人数をきめ、順守できない場合は閉鎖④2021年1月7日から混雑を避けられない通勤時間帯に限り、公共交通機関内でのマスクを推奨する――など規制を強化することになった」
スウェーデンでも倒産や失業は増えている。国内総生産GDP)も落ち込んでいるが、GDPで輸出が50%近く占める産業構造のため、ロックダウンしなくても無傷ではいられないのは仕方ない」
「今回の対策で非常に難しいのは、感染の影響が想像より長期に及んでいていることだ。もし短期で済むならば感染症を抑え込むことだけに集中すればいい。長期なので、感染症を抑え込む以外のことを考えないといけない。例えば介護施設の訪問禁止は、少し前に裁判所で憲法違反という判断が出た。『老い先の短い高齢者が家族に会えないのは苦痛』『認知症の人の症状が進むことが報告されている』などが理由だ」
ストックホルムでは介護施設や医療施設のスタッフに対して定期的な検査を実施することになった。PCR検査は時間がかかるため、迅速な抗原検査を用いる。試験的に12の介護施設のスタッフに抗原検査したところ、5つの施設で陽性者が見つかり、自宅待機となった。特に病気の人が多い介護施設では感染すると命取りとなる。無症状でも感染のリスクがあることを考えれば、定期的な検査は有用だと思うし、迅速に結果が出る抗原検査は有力なツールと考える」
「コロナの感染拡大では社会の脆弱な面が浮かび上がってきており、改善する必要がある。スウェーデン国王が『失敗した』と発言して海外で注目されたが、パンデミック政策評価は長期的に行う必要がある。感染症の専門家は感染症を抑え込むことだけを考えるが、スウェーデンでは感染症以外への影響も考慮している。総合的に政策を考えていくことが大切だ」