コロナ感染した芸能人が覆す軽症のミスリード

下記に記事は東洋経済オンラインからの借用(コピー)です


緊急事態宣言が今月7日に再発令されてから約3週間が過ぎましたが、新規感染者数は十分に下がったとは言えず、重傷者数、死者数、自宅療養者数が増えるなど、厳しい状態は変わっていません。
そんな中、今年に入って新型コロナウイルスに感染した芸能人たちが、さまざまな番組で実体験を語りはじめました。井上和香さん、松村邦洋さん、Kis-My-Ft2・千賀健永さん、東京ダイナマイトハチミツ二郎さん、ミキ・昂生さん、風間俊介さんらの発言がネット上で次々に記事化されて話題を集めています。
これまでコロナ感染した芸能人たちは、感染したことへの批判を恐れてか、「SNSなどで簡単に症状を説明し、復帰の報告をするだけ」という人が大半を占めていました。ここに来て積極的に語りはじめた理由は何で、どんな発言をしているのでしょうか。
また、そんな芸能人たちを出演させる番組サイドにはどんな意図があるのでしょうか。単に「番組に出るチャンスだから」「お金のため」「視聴率を獲りたい」という気持ちだけではないようなのです。
「もう少し遅かったら危なかった」松村邦洋
まずは番組出演時の特筆すべきコメントをピックアップしていきましょう。
井上和香さんは1月27日放送の「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日系)にリモートで出演。昨年12月27日に40℃近い高熱が出て陽性診断を受けたこと、軽症とされて自宅療養となり夫と5歳の娘も感染したことなどを明かしました。さらに、「ウソのような震え方をする悪寒がしても、分類としては軽症でした」「だいぶ強いインフルエンザという感じがしました」「深く息が吸えていない感じがして、『もしかしたら夜中に息ができなくなるかも』という恐怖がありました」などの症状を生々しく語ったのです。
松村邦洋さんは1月27日放送の「バイキングMORE」(フジテレビ系)で取材に応じ、自宅療養時の不安や、保健所の勧めで入院したときの様子を明かしました。なかでも驚きを誘ったのは、医師から「もう少し遅かったら危なかったです。発症してから6~8日目に発作のような症状が出ますので、もしそういうことがあったら(重症になる可能性があるので)覚悟だけしといてください」と言われたこと。さらに松村さんは、「保健所の方が以前、私がマラソンで倒れたこと(2009年の東京マラソンで一時心肺停止)を知っていて、『入院しましょう』と言ってくれて(助かりました)」という孤独死紙一重だった様子を明かしました。
千賀健永さんは1月15日放送の「首都圏情報ネタドリ!」(NHK)に出演し、いまだに残る後遺症についてコメント。「(感染から)2カ月以上経ってるんですけど、(嗅覚障害は)まだ完全には治ってないです。発症した時はどんどん、どんどんにおいがわからなくなって。鼻づまりとかの感じではなく、鼻の感覚がなくなるというか」「ロースカツを食べたときも、味覚はあるけど嗅覚はしないのでゴムを食べている感覚」などと真剣な表情で語りました。
「軽症」という言葉を使う責任の重さ
ハチミツ二郎さんは、1月22日放送の「スッキリ」(日本テレビ系)に出演し、病院に運ばれたときの様子をコメント。「診てもらったら、『人工呼吸器を入れなきゃいけない』と。『首に穴を開けてストローみたいなサイズで血を循環させないといけない』って言われて、麻酔と睡眠導入剤を入れられて眠っていたんですけど、肩を叩かれて『陽性です』と言われた記憶があります」「(先月)14日に入院して、起きたら22日でした。そこで初めて自分が(8日間も)昏睡状態だったことを知りました」と壮絶な体験を語りました。
ミキ・昴生さんは1月10日放送の「ミキの兄弟でんぱ」(KBS京都ラジオ)で、「『死ぬんかな』と。『生きてきた中でこんなに熱下がらんことあるんか』と」「とにかくしんどくて動かれへん。こんなテレビ大好きなのに年末のテレビ一個も見れてない」「お風呂45℃くらいで溜めてもらっても入りながら震えんねん。ずっと寒い」と症状のつらさを語っていました。
芸能人たちは決して「こんなにつらい思いをした」と同情を誘いたいわけではないでしょう。ハチミツ二郎さん以外は「軽症」ですが、その言葉のイメージとはまったく異なる厳しい現実を訴えているのです。「感染力は強くても、ほとんどが軽症で、高齢でなく、持病がなければ重症化しづらい」と高をくくっている人々に向けたメッセージではないでしょうか。
私が出版プロデューサーの仕事もしていたころ、大病をわずらった人から「これからかかる人々のために闘病記を書いて役に立ちたい」という問い合わせが毎月のようにありました。ここで挙げた芸能人たちのコメントには、それと近い使命感を感じてしまうのです。
一方、芸能人たちの発言を引き出している制作サイドとしても、「これまで軽症というフレーズを当然のように使ってきたが、結果的にミスリードになっているのではないか」という自覚があるようです。それだけに「軽症という言葉を使うだけではなく、『軽症でもつらい、怖い』ことも伝えよう」としているのでしょう。
芸能人と制作サイドの両者にこのような思いが芽生えたのは、「軽症扱いで自宅療養中の死者が増えている」ことが大きいのではないでしょうか。いずれにしても、両者の意識が変わってきていることは間違いありません。
コロナ最前線の医師も“軽症”に警鐘
芸能人ではありませんが、1月27日の「とくダネ!」(フジテレビ系)に出演した埼玉県のふじみの救急病院・鹿野晃院長が興味深いコメントを発信していました。鹿野院長と言えば、早い段階からPCR検査の大切さをメディアで訴えつつ、積極的に検査や患者受け入れを行ってきた人物。感染予防を徹底していたにもかかわらず陽性判定が出てしまい、「約2週間の自宅療養から職場復帰したばかり」というタイミングでの出演でした。
鹿野院長は、「初めはいつもの軽い風邪の引きはじめぐらいの症状があって、特に検査までは考える状況ではありませんでした」「2~3時間おきに解熱剤を通常の倍ぐらい飲み続けて、やっと体中にまとわりつくような寒気がよくなりました」などと具体的な症状をコメント。さらに、「『いたるところの血管が詰まって心臓発作や脳卒中を起こす』という怖さはつねにありました」と医師でもそれほどの不安を抱くというシビアな現実を明かしました。
また、「医学的に言うと、『鼻あるいは口から酸素投与する必要がない』という点では中等症にも値しない軽症ということになりますが、自覚症状としては人生1、2位を争うつらさでした。これを軽症というのはどうかと思います」とはっきり語っていたのです。
これらのコメントから、鹿野院長と『とくダネ!』制作サイドの両者が、「軽症」という言葉のミスリードをただしたいという意思を感じました。ここまではっきりと言い切った以上、両者は今後もこのスタンスで発信し続けていくでしょう。
「軽症」のミスリードとともに、芸能人たちが訴えたかったのが、若年層を中心とした感染予防の意識が低い人々に対するメッセージ。
若年層の「感染予防意識を上げたい」
ハチミツ二郎さんは「スッキリ」で約1カ月間にわたる入院生活で感じたことを聞かれたとき、「リハビリの先生とか看護師さんと話したとき、『ぜひ伝えてほしい』と言われたのが、『若い方たちの自覚のなさをぜひともどこかで言ってほしい』ということ。『あなたが大丈夫でも、あなたがすれ違ったお年寄りを殺してしまうかもしれないという気持ちでいてください』と。お年寄りの方も家にいられるならいてほしい。自粛するなら全員でしなければと思いますね」と切実に訴えかけていました。
感染者数の割合は相変わらず20代が最も多いなど、「若年層の感染予防意識が今ひとつ上がっていかない」という現実があります。事実、千賀健永さんが出演した「首都圏情報ネタドリ!」が若者世代に行った街頭調査では、「昨年の緊急事態宣言時に比べて、今回のほうが怖くない」と答えた人が100人中60人を占めました。
あらためて各番組を見渡すと、新規感染者数や重傷者数などの推移、逼迫迫する医療現場や保健所などの現場、かからないための対策などを伝えるコーナーが目立ちます。一方で、軽症者のさまざまな症状や後遺症、自宅療養中の症状悪化、亡くなった人と遺族の姿などを伝えるコーナーは、それほどありません。
もちろんいたずらに危機をあおって不安を抱かせることは避けなければなりませんが、今後はもっと幅広い世代に向けてこれらの情報も伝えていく必要があるのではないでしょうか。さらに言えば、今以上に若年層からも注目を集められる番組にすることが求められているのです。
もう1人、別の角度から印象深いコメントをしていたのが、1月11日放送の「ZIP!」(日本テレビ系)に出演した風間俊介さん。
まずは「陽性がわかった時は頭が真っ白になるというか。でも僕の場合は声枯れのみで、あとは体調変化っていうのはそんなになかったです。37.1℃の発熱があったんですけど、多くの場所が37.5℃で制限をしているので、『むしろ声枯れをして(異変に気づけたので)よかったな』と思いました。でなければ気づけなかったかもしれないと思うので、本当に毎日の体調変化っていうのに気を配っていかないとって思います」と症状の一例としてコメント。
感染対策することが心の支えになる
さらに風間さんは、「『誰かにうつしてしまったのではないか』という不安がひたすら募りました。保健所から『濃厚接触者にあたる方はいない』と聞いて、普段から気をつけているソーシャル・ディスタンスとか、指の消毒とか、『今まで感染対策をどれだけやってきたか』ってことだけが自分の支えになりました」と経験者ならではの感情を語ったのです。
「誰かにうつさなかったことや、感染対策をしてきたことが感染したときの支えになった」という言葉は、「どのように感染したのか」という観点から話す人が多い中、新たな発見でした。芸能人も番組も、「いかに濃厚接触者を作らないか」という観点からの発信をもっと増やすことが求められているのかもしれません。
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また、昂生さんは、「年末年始とかほぼ全部救急で行ってたので、ほんまに対応していただいてありがたい。僕ら(芸人)は笑い話にできるけど、大変やでこれは。こんな症状の人が2000人以上出たら、保健所の人は大変やで」と最前線で働く人々をねぎらっていました。このような「最前線で働く人々へのねぎらいや感謝」も芸能人たちが番組で語りはじめた理由のひとつでしょう。
実際、今回の出演でも「スタジオやロケでマスクしないことの多い芸能人は感染して当然」「自業自得のくせに出しゃばって話さないでほしい」などの批判が挙がっているように、番組に出て語ることのリスクは少なくありません。彼らがそれを承知で発言しているのは、やはり「感染したからには語るしかない」「1人でも少なく、1日でも早く収束してほしい」という使命感と願いによるところが大きいのではないでしょうか。