怒りを我慢する人ほど「死亡リスクが高い」理由

下記は東洋経済オンラインからの借用(コピー)です


それまで元気だった人が、急に亡くなり周囲の人を驚かせることがあります。このような「突然死」の原因にはさまざまなものがありますが、その1つの要因が血管、つまり循環器系のトラブルです。
「怒りをためる人」ほど病気になりやすい
私の研究は「怒り」からスタートしました。その背景には怒りから高血圧になり、それが循環器疾患につながるのではないかという疑問がありました。実際に調べていくと、ストレスが体にどのような影響を与えるかについて研究、発表した雑誌がありました。
しかもとても古く、1939年の『Psychosomatic Medicine』という心身医療向けの雑誌です。そのなかで、「高血圧になりやすい人」を調べたところ、「怒りをためやすい人」であると書かれていました。つまり、私が思っていたとおり、怒りによる興奮は血圧を上げてしまうということです。
当然、血管系の病気である循環器疾患になるリスクも高くなります。また、私たちの研究グループでも「怒りと心血管疾患、循環器疾患との関係」について発表した論文があります(Tezuka K, et al. Psychosom Med, 2020)。
怒りの測定には、20問の質問に答えてもらって怒りのスコアを出し、怒りの強さを客観的なスコアとして出します。そのなかで、怒りと循環器疾患との関連を、都会と地方の田舎とで見ました。すると興味深いことに、都会でしか明らかな関係性が見られませんでした。
その理由は、おそらく都会のほうがストレスが高いということが影響しているのではないか、また都会のほうが人とのつながりが少ないことが影響しているのではないかと私たちは予想しています。
全循環器疾患で見ると、都会では怒りのスコアが高い人は、低い人に比べて1.87倍も病気になりやすいという結果になりました。
また、長い目で見ると、怒りは心臓病などとも関係が深いこともわかりました。最終的には、心筋梗塞脳梗塞など血管が「詰まる」病気に強く関係していて、怒りが強い人ではそのリスクが2.9倍高かったのです。
欧米の研究でも、喜ぶ、泣く、怒るなどの感情と血圧との関連を見た結果、怒ったときに血圧がいちばん上昇しやすいことがわかっています。さらに、怒りは突然死の原因となる心室頻拍などの不整脈を引き起こすことが報告されています。
このように怒りっぽい人が突然死する可能性は否定できません。突然死は心筋梗塞不整脈から起こることが多いのですが、怒りが不整脈心筋梗塞につながることを考えると、心筋梗塞不整脈を経て、結果的に突然死に至ることはあり得るのではないでしょうか。
阪神ファンは血圧が上昇しやすい
余談ですが、野球観戦での血圧の動きを調べたことがあります。当時、私は大阪に住んでいたので、阪神ファンで普段は低血圧の65歳の女性に対して、阪神タイガースの野球観戦でどれくらい血圧が上がるかを調べました。
試合開始時は最高血圧が110mmHgでしたが、プレーボールで150mmHg近くまで上がりました。ホームランを打つと184mmJgにまで上昇、そのあとなんと200mmHgを超えてしまいました。
逆転され、落ち込んだときは110mmHgに戻り、試合終了時も同様の数字でした(ちなみに、参加者全体の分析では、阪神ファンは他球団ファンに比べて試合中の血圧が上昇しやすいこともわかりました)。このことからストレスというものは悪いことばかりではなく、楽しいことでも上がるということがわかりました。ただし、興奮しすぎてしまうのは、やはりあまりよくないでしょうね。
高齢になると怒りっぽくなるといわれることがあります。また“キレる高齢者”が話題になることもあります。
年齢とともに、感情を抑えるのが難しくなったと実感している高齢者の方もいるのではないでしょうか。実は、これには医学的な理由があります。自分の感情をコントロールできなくなる状態のことを「感情失禁」といいますが、高齢になると感情失禁が起こりやすくなることがあるのです。
その理由として、「動脈硬化で脳の血管が詰まったり、血管が破れたりする」ことが挙げられます。実際、脳卒中になると感情失禁が起こる人が多くいます。脳卒中などで脳の感情をつかさどる脳の機能に障害が生じると、感情を抑制することができなくなってしまうのです。
感情がストレートに出るというよりは、コントロール不能になる。一度怒ったら怒りっぱなしになる、泣いたら泣きっぱなしになるという状態になります。
また、感情をコントロールしたり記憶したり考えたり、もっとも人間らしいといわれる脳の部分に前頭前野があります。よくいわれているのが、髄膜腫(脳の髄膜にできる腫瘍)などの腫瘍が前頭前野にできると、性格が変わってしまうケースです。
真面目な人が急に「不真面目」になることも
例えば、前頭前野に腫瘍ができたことで、それまで厳格だった神父さんが、猥褻な言動をする人に変わってしまったという報告があります。
認知症によって前頭前野の機能が落ちてしまった方でも、真面目だった人が急に奔放になってしまった例なども聞きます。理性が働かなくなったり、道徳観念がなくなってきたりしてしまうようです。
脳卒中になる手前の動脈硬化の段階でも、感情失禁は起こるといわれています。ということは、最近妙に怒りっぽくなってきた方は、動脈硬化が起きている可能性があるともいえます。
例えば、元教員の男性で、以前はやさしい性格だったのに、急に怒りっぽくなった方がいらっしゃいました。MRI検査で調べた結果、脳内に多数の小さい梗塞(ラクナ梗塞)が見られました。
明らかな麻痺や言語障害など脳卒中による特徴的な症状はないため気がつきませんでしたが、実は徐々に動脈硬化が進んでいたのです。身近な人が怒りっぽくなるなど、感情のコントロールがうまくいかなくなったら、将来の脳卒中を予防するためにも、早めに検査に行かれることをおすすめします。
怒りや不安といった感情は、人間だけでなく動物にもあります。感情というのは生体反応の1つだからです。
したがって、感情が動くのは決して悪いことではありません。また、怒りや不安などの感情は急性期的に起こってくるものなので、短期的な影響はほとんどありません。
怒りをためこんではいけない
問題はこれらの感情を“ためこむ”ことです。なぜなら、ためこむことで、その感情は慢性化していくからです。表面上は穏やかに見えても、心のなかでかなり怒りを我慢してためている状況も、よくありません。怒りを我慢してためこんでしまうと、かえって怒りが長引くともいわれています。
『感情を“毒”にしないコツ』(青春出版社)書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします
怒りを感じたとき、ワーッと発散するとその場で解決してすっきりしてしまうことがありますが、何もいえずに我慢していると怒りが増してきて、いつまでたっても治らない。おまけにその怒りを自分だけで抱えてしまうと、せっかく忘れていた怒りがまたよみがえってきてしまう――こんな“思い出し笑い”ならぬ“思い出し怒り”の経験、みなさんにもあるのではないでしょうか。怒りをためこんでいることで、自分のなかで何度も何度も繰り返しその感情を味わうことになるのです。
さまざまな感情のなかでも、特にたまりやすいのが怒りです。怒りをためている人は、そのことによってどんどん気持ちが落ち込んできます。やがてこの急性的な感情が慢性化すると、最終的にはうつにつながってしまいます。