izumiwakuhito’s blog

あなたでしたらどう思いますか?

患者と医療者それぞれ考えているゴールがずれると問題が起こる


下記の記事は日刊ゲンダイデジタルからの借用(コピー)です

「JCI」という国際的な病院機能評価機構があります。世界基準で患者の安全性が確保されているか、適正な高度医療が提供されているかを詳細な項目で厳格に評価する非営利団体です。

 そのJCIの評価項目で、医療者側がもっとも患者さんに与えてはいけないものとして「苦痛」や「ストレス」があります。これまで何度かお話ししてきましたが、患者さんの不安を緩和するためには、「医療安全」に沿った対応が求められます。医療者と患者さんが相互に信頼関係を築き、トラブルを回避するためには欠かせない考え方だといえます。

 患者さんは、常にさまざまな不安を抱えています。それに対し、医療者は「選択する治療にはどのようなリスクがあるのか。それを踏まえ、局面に応じて治療をどのように進めていくか」を理解してもらえるように丁寧な説明を繰り返しています。ただ、残念ながらそれでもトラブルが起こってしまうケースがあります。

 心臓手術の場合、悪くなっていた心臓を処置するだけで済み、その後もスムーズに回復できれば、医療者側と患者さんの信頼関係は崩れませんし、何も問題は起こりません。しかし、近年は高齢の患者さんが多く、全身の臓器の状態がよくない場合も少なくありません。そのため、手術した心臓以外の部分に合併症を起こしてしまうリスクが高くなっています。

 たとえば、手術の際にかける全身麻酔は少ないながらも肺にダメージを与えますし、術中に血圧が大きく変動して腎臓に負担がかかり、腎不全を招く最悪のケースも考えられます。術後に心房細動が残って脳梗塞を起こしたり、患者さんの体質や手術の種類によっては切開した傷のくっつき具合が悪かったり、時間がかかるケースもあります。施設の対策が不十分だと、術後に創部感染を起こす可能性もゼロではありません。

 まずは、治療を行う前に、手術する心臓以外の部分でそうした合併症を起こすリスクがあることをきちんと理解してもらうのは大前提で、さらにきめ細かい対応が大切になってきます。

■不安、不満、ガマンが蓄積すると…

 偶発的に合併症を起こした患者さんは、当然のことながら合併症に対する別の治療が必要で、その分、在院日数が延びることになります。すると、患者さんはただでさえ不安を抱えているうえ、合併症によって受ける痛みや日常生活の制限に対し、不満やガマンが蓄積されていきます。さらに、中には「入院が長引くのは困る」という事情を抱えている人もいます。こうした状況で、医療者側の対応が不十分だと、信頼関係が崩壊して、患者さんの不満が爆発してしまうのです。

「最初にもらった治療計画書とはまったく違うじゃないか!」

「治療にミスがあったんじゃないのか。あんたたちは信用できない」

 こうした“クレーム”は担当医だけでなく、看護師にも向けられます。そして場合によっては、訴訟に発展する可能性もあるのです。

「医療安全」に沿ったきめ細やかな対応は、こうしたトラブルを起こさないようにするためのものでもあります。合併症を起こすリスクがあることは事前にきちんと説明し、医療者側にとっては想定内の状況だったとしても、「合併症が起こる可能性があることは、最初に話したじゃないですか」で済ませようとすれば、問題がさらにこじれてしまいます。

 患者さんは常にさまざまな不安を抱えていることを念頭に置き、その都度その都度、局面に応じて、角度を変えた説明を行うことが重要です。たとえば、治療期間が当初より延びていることについて、なぜ延びているのか、どのような処置が行われているのか、どのくらいかかりそうなのか、といった部分にフォーカスして、じっくり説明を繰り返すのです。

 少しでも早く回復して社会復帰を実現させる――。患者さんも医療者も、同じゴールを目指しています。しかし、患者さんが考えているゴールと、医療者側が考えているゴールがずれたときに問題が起こってしまいます。ずれているところはどこなのか。それをはっきりさせるのが、医療安全に沿ったきめ細やかな対応で、それが信頼関係を構築し、未然にトラブルを防止し、最終的な良い結果を導くことにつながるのです。

天野篤
順天堂大学医学部心臓血管外科教授