中国政府が「離婚防止の新制度」を導入、ネットで大炎上している理由

下記の記事はダイアモンドオンラインからの借用(コピー)です


中国政府は近年、急増して社会問題化している離婚を減らすため、1月から「新制度」を導入した。折しも、中国では「コロナ離婚」も話題になる中、SNSなどのネット上では「なんで国が口を出すのか」と怒りや戸惑いの声で炎上状態になっている。(日中福祉プランニング代表 王 青)
中国政府が離婚に
「30日の冷却期間」を設置
 中国政府は、昨年5月の全国人民代表大会(日本の国会に該当)で、「中華人民共和国民法典」の中に、「離婚の届出」をしてから成立するまで、30日の「冷却期間」を設けるという新制度が可決された。そして、今年1月1日に正式に施行された。冷却期間中、夫婦の一方が最終的に離婚に同意しなかった場合、離婚届は取り消されるというものだ。
 この新制度は大きな波紋を呼んでいる。導入直前の昨年末、有名女優らが終電に駆け込むように離婚したことも大きな話題となった。国民のほとんどが強く反対している。これにより結婚率がさらに下がり、少子化に一層拍車がかかるのではないかと懸念されている。
 中国では、結婚と離婚の手続きは、政府機関である民政局に属する「婚姻登記センター」で行われる。入籍したら、結婚証が夫妻に一冊ずつ発行される。結婚証には、夫婦が並んで一緒に映っている証明写真のほか、氏名や年齢、身分証明書番号などが記載されている。
ちなみに、二人そろって結婚証を手にしている写真は結婚報告として使われることが多い。一方、離婚の際も同様である。離婚証がそれぞれに渡される。ただ、中の写真は当事者本人の証明写真のみ。なので、区役所に婚姻届や離婚届を出すだけの日本と比べると、中国のほうがかなりの儀式感がある。
結婚証
 コロナ禍の前は、所在地の「婚姻登記センター」のウェブページを見て、空きがあれば当日でも直接行って手続きができたが、昨年からは結婚も離婚も先にネットで予約をしなければならなくなった。そして、今年1月1日からは、夫婦合意の上での協議離婚の場合、「申請→受理→30日の冷却期間→審査(30日間を要する)→成立(離婚証をもらう)」という流れになっている。
離婚証
片方の気が変われば
離婚訴訟となる
 最初の申請時と最後の離婚証をもらう際、当事者本人が揃って登記センターに行かなければならない。そして、30日間の冷却期間の間、もし片方の気が変われば、手続きが取り消され、協議離婚としてみなされなくなる。離婚訴訟となり裁判が必要となる。
 そのため、昨年末、新制度施行の前に離婚を済まそうと予約が殺到し、上海では予約が集中しすぎて予約不能となった。深センでは2020年12月の1カ月間の離婚件数が、前年同月比で35%も増えた。
「結婚と同じ、離婚も二人の間のことなので、どうしてこんなに複雑にされ、国が口を出すの?」
「絶望する!冷却期間が設けられているからといって、よりを戻すわけがないだろう、大概は離婚までにすごく考え、悩み、熟慮しているから、理不尽すぎる!」
 など、SNSでは、悲鳴や怒りの声が絶えない。
中国では
離婚が社会問題に
 中国は、2014年から結婚件数が減り続けている。
 反対に、2003年からは、離婚率が15年間連続上昇。2019年の1年間で、全国で登録した結婚の件数が927.3万件だったのに対して、離婚は470.1万だった。ちなみに、2018年の離婚率は3.2%、日本の1.6%を上回る。離婚はもう社会問題となりつつある。
 筆者の上海の友人であり、30年以上婚姻関係や家庭財産紛争の専門弁護士として有名な女性に、今回の30日離婚冷却期間について話を聞いてみた。
「現在、離婚件数が年々増加し、深刻な社会問題となりつつあります。行政が離婚手続きに追いつかないほどの状況となっています。離婚の原因はさまざまですが、社会や経済が発展し、海外の文化に触れる機会が増えたため、生活環境や価値観が、昔と比べると大きく変わりました。
 特に現在、離婚する夫婦の中で、『80後』と『90後』(80と90年代に生まれた人)の30代と20代の『一人っ子』世代が約4割~5割を占めています。彼らは、生まれてから親と周りの大人たちに大事にされて、わがままで自己中心的といった特徴があるほか、独立後の生活能力も欠けています。つまり『親離れ』がまだできてない。体は成人になっていますが、精神的には未成年なのかもしれない。
 このような『一人っ子同士』が結婚したら、家庭を共に運営していく概念に乏しく、『妥協』や『協力しあう』という言葉を知らず、何かの衝突や挫折があれば、すぐ喧嘩して別れる『衝動離婚』のケースが多いのです。このような背景から、政府としては、『衝動離婚』を何とか食い止めようと、冷却期間中、もう一度よく考え、話し合いをして、理性が戻れば、関係修復の可能性があるという目論見(もくろみ)で、高い離婚率を抑制し、社会の安定を計ろうというのです」
 実際、上海のいくつかの区の「婚姻登記センター」には、「仲直りを勧めるカウンセリング」や「婚姻相談」などの部署を設置し、仲介する構えである。
ネットでは
新制度に猛反発
 政府のこのような「親心」に反して、ネットでは、この新制度に猛反発が起きている。
「愛がなければ別れたほうがいいに決まっている、人生は短いから。この30日間の冷却期間は、単なる先延ばしをしているだけ、離婚の労力やコストが増すだけで、時間の無駄だ!」
「衝動離婚を防ぐより、結婚冷却期間こそが欲しい。結婚までに目を大きく開いて、相手をよくみたほうがいいんじゃない?結婚を慎重にすれば、軽率な離婚も減る」
「国は、婚姻の自由を尊重すると言いながら、衝突が絶えない家庭を無理やり維持させようとしている。婚姻の意味を理解できていない、本末転倒だ!」
 そして、多くの女性からは、
「ますます結婚したくなくなってきた。もし相手が離婚に合意してくれなかったら、それこそ泥沼化して、一生台無しになるわ」
「まだ結婚届を出さなくてよかった。もうちょっと考える」
「また一つ結婚したくない理由ができて、よかった!」などの結婚慎重論が目立つ。
新制度は
「人権侵害」という声も
 この新制度は「人権侵害だ」と主張する人もいる。
「一部の人の衝動離婚を止めるために、大部分の人の離婚の自由と権利を奪ってはいけないと思う」
冷却期間中、何が起きるか分からない、DVが原因での離婚だったら、こんなに手続きを引っ張ったら、人命にかかわるかもしれない。財産が勝手に奪われるかもしれない。深刻な問題だ!」
 前出の女性弁護士は、「もう一つ、中国はほとんどが共働きであるため、女性が経済的に独立しているし、社会的地位も高い。女性は各分野で活躍しています。われわれ法曹界でも女性の裁判官や弁護士の数が男性とそれほど変わらない。ここは日本との大きな違いですね」と続けた。
 そして、「離婚は単なる夫婦二人の間の問題ではない。双方の家族やお子さんも絡んでいます。近年、若いカップルだけではなくて、中高年の離婚件数も増えています。中国はあまりに速いスピードで発展したから、経済は豊かになりました。でも、精神的に豊かになったとは限らない。実際、私が普段預かっている離婚訴訟の案件で、離婚の一番の原因は男性による浮気と価値観の違いです。それも事業で成功している人ほど多い傾向がみられます。財産の分割、特に共有不動産の分割(当初購入した時、双方の親が援助したケース)、子どもの扶養権などについて、双方の争いが激しく、仲介、調査などがとても繁雑で、長期化している」とも語った。
 中国は急速な経済の発展で人々の倫理観も大きく変わった。離婚率が上がり続けることは、社会の矛盾が深刻化し、人々のさまざまな考え方の衝突の表れでもある。
中国政府は
離婚を何とか減らしたい
 現在、一部の地域の「婚姻登記センター」には、離婚手続きにきた夫婦に下記のようなアンケートを書かせている。
(1)相手のどこにひかれて、結婚の決心をつけたのですか?(3つ以上挙げてください)
(2)現在抱えている問題を解決するのに、離婚以外に、ほかの選択がありませんか?(2つ以上挙げてください)
(3)離婚後の生活の準備はできていますか?どんな準備ですか?(3つ以上挙げてください)
 このアンケートはいかにも中国らしく、中国政府が「離婚を何とか減らしたい」という真面目な苦衷(くちゅう)を感じざるをえない。
 ただ、これらの一連の工夫は「離婚のブレーキ」として機能していない。各地では1月の時点で、すでに2月の予約が満杯となり、毎日、深夜零時に予約の空き状況をネットに更新した瞬間、秒殺でなくなる。ついには、予約代行という新しいビジネスまでも誕生したという。
 地域によっては、予約で枠が決まっているため、予約待ちの人が増える一方で、「そのうち抽選になるのでは…」という声まで出ている状況である。
 どうやら「30日間の離婚冷却期間」をもってしても、離婚の熱を冷ますことはできないようだ。