izumiwakuhito’s blog

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藤竜也と倍賞千恵子が語る熟年夫婦のかたち「僕が妻と〈おやすみ〉の握手をする理由」

下記は婦人公論オンラインからの借用(コピー)です

日本を代表する名優同士であり、かつプライベートでも仲の良い藤竜也さんと倍賞千恵子さん。意外にも、昨年5月公開の映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』(Blu-ray・DVD発売中/DVDレンタル中)が28年ぶりの共演だったという。映画では亭主関白の夫に、粛々と従う妻を演じたふたりだが、実際の夫婦関係はちょっと異なるようで──(構成=小杉よし子 撮影=木村直軌)
陶芸の次の趣味は「妻」です!?
藤 共演はなんと28年ぶりですよ。
倍賞 前にご一緒したテレビドラマ『愛と哀しみの海 戦艦大和の悲劇』でも夫婦役でしたけど、今回の映画『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』では、結婚50年の円熟した夫婦ですね。
藤 倍賞さんとは家が近いので、僕の家内(元女優の芦川いづみさん)と倍賞さんのご主人(作曲家の小六禮次郎さん)も交えて時々お会いする機会があって。だから28年ぶりという気があまりしませんね。ご近所同士として接触があるわりには仕事で一緒になる機会がなかったんで、今回はうれしいなと思いました。
倍賞 撮影はすごく楽しかった。
藤 お互い、普段の夫婦の空気感をわかっているものですから、自然な感じで夫婦役を演じられました。
倍賞 『戦艦大和』のあとに私、横浜に引っ越して、ご近所さんになったんですよね。藤さんは住んでいる地域の情報に詳しいうえに、多趣味で多才。いろいろと影響を受けています。リキッドという液状のアクリル絵の具で素敵な絵をお描きになっていた時には、私たち夫婦も教えてもらって。楽しくて毎日描いてはどんどんハマり、それはもう、長く続いたんです。
藤 そうそう、ご夫婦でけっこうハマっておられた。
倍賞 とはいっても、藤さんみたいに本格的じゃなくて、ぜんぜん超えられませんけど。
藤 いやいや……。
倍賞 リキッドの絵にハマった後、近所で陶芸をやっている主婦の方と知り合って、そこの陶芸教室に入ったんです。もともと興味があって、いつかやってみたいと思っていたんです。そんな話をしたら、藤さんご夫妻もお仲間に。どんどん腕を上げられて、お庭にものすごく立派な窯も建てましたよね。
藤さんの作品は本当に素晴らしくて、デパートで展示販売されるとたちまち売れちゃう。私はいまだにそこまで到達していませんが、地道に楽しんでますよ。それにしても藤さんちの窯は本格的で大きかった。
藤 2階建ての建物だったから、家内から「目障りよ、なんとかならないの?」ってイヤな顔をされ続けて。思い切って取り払った時には、「あぁ、眺めがよくなって、せいせいした」なんて言われちゃって。(笑)
倍賞 よく思い切りましたね。納得できるところまで到達して、思い残すことはなくなったんですか?
藤 はっきり言えば、飽きちゃってね。窯もだんだん使わなくなって、なのにあの巨大な存在感でしょ。落ち着かなかったんですよ。中に入るとホコリだらけだし。なんだか自分の心が荒れているような気になってしまってね。取り払った跡はとてもきれいになってますよ。
倍賞 そうなんですね。今、陶芸に代わってハマっているものは?
藤 ないですね。困ったな……。じゃあねぇ、「趣味は妻です」とでも言っておきましょうかね。(笑)
「世の女性たちに嫌われてください」
倍賞 夫婦そろって何かを始めるのって、共通の話題で会話が増えていいんじゃないですかね。最近そう思いますよ。夫婦だって、言葉で言わないと想いは伝わらないから。映画の中で藤さんが演じた勝さんみたいに無口で無愛想じゃダメですよね。勝さんは典型的な亭主関白で、妻が何をしてあげても当たり前という感じで、感謝の言葉もないの。
藤 倍賞さん演じる妻の有喜子さんが、外出から帰宅した勝の靴下を玄関で脱がせて、それを丸めて自分のエプロンのポケットにしまうシーンがあるんです。あれはさすがにやり過ぎだろうと思って、監督に遠まわしに「いくら夫唱婦随の夫婦でも、こんなことまでしますかね……」と、ちょっと抵抗してみたんですけどね。「いやいや藤さん、ぜひやって、世の女性たちに大いに嫌われてください」と言われました。(笑)
倍賞 靴下まで脱がせてあげる人は少なくなってきてるでしょうけど、あのシーンで夫の後ろに妻が従う昭和的な夫婦の関係を見せておかないと、物語が始まらないですものね。勝さんは有喜子さんが楽しげに話しかけても、いつも「ふーん」って感じで興味なさそう。何も聞いてないの。
藤 あれは、せつないですよね。
『初恋~お父さん、チビがいなくなりました』Blu-ray&DVD発売中(販売元:TCエンタテインメント)/DVD好評レンタル中(販売元:クロックワークス
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倍賞 そう。有喜子さんはとっても寂しかったのネ。そんななか、可愛がっていた飼い猫のチビがいなくなって、有喜子さんは離婚を決意する。そして家出という初めての小さな反抗をきっかけに、有喜子さんは自分の気持ちや夫の本心を深く理解していくんですね。
藤 そうですね。
倍賞 そこに愛があったのかどうかは映画をご覧いただくとして(笑)、この映画は実はラブロマンス作品でもあって。今の年齢でそういう作品に出られることもうれしかった。藤さんは奥さんを大切になさっていて、ちゃんと話を聞かれる方ですから、奥さんは寂しい思いをなさっていないでしょ。
藤 ところが、うちは一見、亭主関白に見えるらしいんです。どういうわけだか近所で「お宅は旦那さんがお強いんでしょう?」とか言われるんです。僕の風貌からそう見られるようで。だから妻は同情されているみたい。
倍賞 あらら(笑)。ご夫婦で意見が合わなかったり、口論になったりすることは?
藤 最近は記憶にないねぇ。以前は3、4年にいっぺんぐらいはあったけど。
喧嘩して別行動しても。帰る先は…
倍賞 うちはね、今もぶつかり合うことがありますよ。私は歌手として音楽家の主人とふたりでコンサートをすることがあるんです。「男はつらいよ」とか「下町の太陽」などを歌うんですけど、お互いに音楽に関しては頑固なところがあるようで、なにかしらぶつかって譲り合えないことがあるんですよ。
藤 お互い表現者同士だから。
倍賞 でも、そのうち「音楽家が言うことはやっぱり正しいんだな」と歩み寄ったり、ピアノを弾いたり作曲したりする主人も、歌い方やおしゃべりの間合いに関してはイマイチわからないところがあるようで、「そういう時は、こうしたほうがいいと思うよ」と私が言うと、「あ、そうか。じゃ、そうしよう」となることも。
藤 一緒にひとつの仕事をすると、どうしてもね。
倍賞 昔、レコーディング中に彼が気分を害して途中でスタジオを出て行ってしまい、私も作業をやめてしまったことがあります。おかげで借りていたスタジオがパァになってしまいました。
藤 喧嘩して別行動とはいえ、帰る先は同じ家。(笑)
倍賞 その時は、私は帰りに友だちと会って「アタマにきちゃった」って愚痴を聞いてもらって気を晴らした覚えがあります。でもたいてい帰宅して食事の用意をして、いつものように一緒に食べてるうちに……。
藤 会話が戻ってくる、と。そんなもんじゃないですか、どこの夫婦も。映画の中の勝みたいに、妻が何をしても何を言ってもつれない反応しかしないんじゃ、喧嘩も始まらないけれど。
倍賞 だいたい女には家事が待っていますから、そっちに気が行っちゃいます。大分前の話ですけど、コンサートの日、ふたり一緒に家を出て、仕事を終えるとふたりで帰る。帰って、キッチンでご飯の支度をしていた時、「あれ? これっておかしくない? 私だけまた働いている」と言ったら、彼は「そうだネ」と。その日を境に彼も変わっていきました。
藤 割り切れない想いをためこんでいたんだ。(笑)
寄りかかり合って生きていく
倍賞 そうやって吐き出してからは、だんだん向こうも変わってきました。きっと彼も努力しているんですよね。おととい私、仕事で朝が早かったんで、前の夜に「飛行機の中で食べるから、起きたら食べずに出かけるね」と言って寝たの。すると朝、作ってるんですよ。玉ねぎのスープと茹で卵と、ヨーグルトに果物をのっけたのと。「どれかひとつでも食べて行って」と。
藤 素晴らしい!
倍賞 ありがたいなと思いましたから、残さず食べましたよ(笑)。ただね、女の人は料理を毎日やっても別に感謝はされないですよね。でも男の人がしてくれるとありがたいなって思うのは不思議ですよね。
藤 そこはやっぱりお互いに「ありがとう」という感謝の気持ちが大事なんじゃないかな。ご飯を食べたら、「おいしかったよ」とかね。
倍賞 たとえまずくてもいいんですよね。相手のことを想って一所懸命作ってくれる気持ちがうれしいでしょ。「今日はしょっぱかったな」「ちょっと甘いな」とか、ひと言だけでも違うんじゃないかしらね。
味付けの感じ方で体調の変化にも気づけるし、お互いの健康状態のチェックにもなる。歳を取って、会話がなくなってきた時こそ、食卓での声がけは大事ですよね。最近はまた料理することが楽しくなり、ちょっと無理しても作るほうがいいなと思います。
藤 口論になった時は、どうおさめますか?
倍賞 うちは翌朝起きたら何事もなかったかのように、「おはよう」と言うところから始めるんです。私ね、「行ってらっしゃい」とか「気をつけてね」とか、声かけ運動は意識的にしています。
藤 声かけ運動! それは大事ですね。喧嘩したあとでも、自然に仲直りするきっかけになる。あのね、夫婦は歳を重ねるほど、お互いに認め合う、必要とし合うのがいちばん大事だと思います。だから僕は「いてくれなくちゃ困るんだよ」という雰囲気を妻に伝えるんですよ。
倍賞 素敵! 必要とされてるんだなと思えたら、うれしいですよね。
藤 実際、「妻がいてくれなきゃひとりでどうしよう」と思いますもの。逆に考えると、相手から必要とされていないと感じるのがいちばんつらいと思う。現にね、家内がクラス会だとかいってお友だちと出かけてしまうと、家の中の空気がまるでつまんなくなるんですよ。もうホント、つまんない空間、って感じ。
倍賞 まさに“趣味は妻”ですね。(笑)
藤 うちではね、毎晩寝る前に夫婦向き合って「おやすみ」の握手をします。これ、けっこう切実ですよ。翌朝、起きてこないってこともありうるわけだからね。
倍賞 切実な年齢になりましたね。今回の映画には2018年に亡くなった星由里子さんも私たち夫婦の間に波風を立てる女性役で出演なさっています。17年の寒い時期に横浜のほうでロケをしましたが、歳を重ねられてもおきれいで可愛らしかった。あれからほどなく訃報が舞い込んで、とてもショックでした。
藤 驚きましたね。僕らもいつまでも元気でいるために、体のためになることを続けないと。うちでは握手以外に、夜寝る前に夫婦で向き合って手を取り合い、軽い屈伸運動をしているんですよ。僕らは“マサイ族健康法”と呼んでいるんですが。少しは体を動かさないとね。
倍賞 それ、いいですね。
藤 やっぱり夫婦関係にも気づかいや努力は必要かもしれない。人は歳を取ると体力がなくなってきて、足元もおぼつかなくなるでしょう? ふたりで町を歩くと、彼女は僕の腕につかまってくるんですよ。そうすれば、しっかりと歩けるから。夫婦って、寄りかかり合って生きていくものなんだと日々、実感しています。
倍賞 歳を重ねて、いろいろなことがわかってくるんですね、きっと。