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体形の問題ではない! 血糖値が上がりやすくなる「やせメタボ」の危険性

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やせ型の人でも体内でひそかに進行する「やせメタボ」があるのをご存じだろうか。ポイントとなるのが筋肉だという。筋肉に脂肪がたまった状態である「脂肪筋」になっていると、糖尿病やメタボリックシンドロームのリスクを高めてしまう。「もはや、メタボは体形だけでは判断できません」と、順天堂大学大学院代謝内分泌内科学・スポートロジーセンター先任准教授の田村好史さんは言う。リモートワークで「歩かない生活」になり、忙しくて食事内容が偏っている人は要注意だ。気になる「やせメタボ」について聞いていこう。
糖尿病発症リスクは、肥満者よりもやせた人のほうが高い?!
 メタボといえば、太った人、お腹がぽっこり出ている人の病気。太っていない自分は大丈夫、と安心していないだろうか。近年、やせ型の人であっても油断できない研究結果が続々と発表されている。40~79歳の日本人約7200人を対象に9.5年間追跡した研究によると、BMI(*1)が高い肥満の人よりも、低い(やせている)人のほうが糖尿病発症リスクが数値としては高いことがわかった(下グラフ)。
やせ型の人は肥満者よりも糖尿病発症リスクが高い
40~79歳までの糖尿病ではない日本人男女7240人を9.5年間追跡。BMIが18.5未満のやせ型の群は、18.5~22.9の普通体形の群に比べて糖尿病の発症リスクが約2倍高く、25以上の肥満の群よりもリスクは高かった。(データ:Diabetol Int(2012) 3;92-98より改変)*統計学的有意差あり
 メタボリックシンドロームは、内臓周囲に脂肪が蓄積する「内臓脂肪型肥満」に加え、脂質代謝異常、高血圧、高血糖のうち2つ以上が当てはまる状態のことを言う。動脈硬化を進め、脳梗塞心筋梗塞といった命に関わる病気につながることが広く知られている。
 メタボが進行した先にある糖尿病も、肥満度が高くなるほどかかりやすくなるものでは、と思っている人がほとんどではないだろうか。
 肥満ではない人の体に起こる代謝の問題について15年間研究を続けてきた順天堂大学大学院代謝内分泌内科学・スポートロジーセンターの田村好史さんは、「もともとアジア人は欧米人と比べて血糖値を下げるインスリン(*2)の分泌能力が弱く、軽度の体重増加であっても糖尿病やメタボにかかりやすいことが知られてきました。発表された上記の研究では、まだ糖尿病を発症していない人であってもやせ型の人はその後、糖尿病にかかりやすくなることが明らかになりました。もはやメタボなどのリスクは体形のみでは判断できない、してはいけないと考えています」と説明する。
*1 BMIとは、肥満の基準となる体格指数(body mass index)のこと。体重(kg)を身長(m)で2回割って算出する。
*2 インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンの一種で血糖値を下げる役割がある。
 BMIという基準から言うと、BMI25kg/m²以上が「肥満」となる(身長170cmで体重72.25kgの人の場合、BMIは25.0)。意外にも、BMIが低い人たちのほうが、糖尿病リスクが高かったというのだ。やせても糖尿病になってしまう人の体の中で何が起こっているかについて、田村さんは複数の事実を明らかにしてきた。
標準体形でもメタボリスク因子が1つでもあると肥満の人並みにインスリンが効きにくくなる
日本人男性70人を対象に、BMI23~25kg/m²で、高血糖脂質異常症、高血圧のメタボリスク因子を1つも持っていない人、1つ持っている人、2つ以上持っている人に分け、骨格筋のインスリン感受性(筋肉でのインスリンの働き)を測定。リスク因子が1つでもあると、肥満でメタボの人と同程度に骨格筋でのインスリン感受性が低下している、つまり糖尿病リスクが高い可能性があることがわかった(*3)。
閉経後のやせ女性では「脂肪筋」が多くなるほど食後血糖値が高くなる
やせた閉経後女性(BMI18.5kg/m²未満。平均年齢56.2歳)では、食後に高血糖値になる割合が同年代の標準体重女性の約2倍高い(やせた女性37%、同年代女性17%)。さらに調べると、筋肉量が少なく、筋細胞内に脂肪が蓄積する「脂肪筋」が多いほど、食後血糖値が高くなった(*4)。
若年やせ型女性では標準体重の人より耐糖能異常が7倍多くなる
やせ型の若い女性(BMI18.5kg/m²未満。平均年齢23.6歳)では、食後高血糖となる「耐糖能異常」の割合が、標準体重女性よりも約7倍高い(やせた女性13.3%、標準体重の女性1.8%)。その率は米国の肥満者(BMI30kg/m²以上)における割合(10.6%)よりも高かった。耐糖能異常のある人は、インスリン分泌が低下していただけでなく、肥満の人に生じると考えられてきたインスリンの効きが悪い(インスリン抵抗性)という特徴が見られた(*5)。
*3 J Clin Endocrinol Metab. 2016 Oct;101(10):3676-3684.
*4 J Endocr Soc. 2018 Feb 19;2(3):279-289.
*5 J Clin Endocrinol Metab.2021 Jan 29;dgab052.
田村さんは「メタボなどのリスクは体形のみでは判断できない」という
糖を代謝する巨大な臓器「筋肉」の問題が全身に悪影響
 「肥満ではないのに糖の代謝が悪くなり、やせメタボとなっている人の体では、脂肪筋などが原因で、インスリン抵抗性となっていることがわかりました」(田村さん)。
 通常、食事でとった糖は、筋肉や肝臓など、糖をエネルギー源とする臓器に運ばれる。筋肉と肝臓がブドウ糖を取り込むときのスイッチ役となるのが、前出のインスリンというホルモンだ。
 インスリンが正常に働いていれば、血糖値は一定に維持される。ところが糖尿病患者では、インスリンの分泌量が減ったり効きが悪くなったりして、糖が十分に取り込まれず血糖値が上昇したままになる。インスリンの効きが悪くなる主たる原因が、内臓脂肪。だから肥満の人は糖尿病になりやすい。これが、これまで知られてきた事実だ。
 一方、「やせているのにインスリンの効きが悪い、やせメタボの体」では、脂肪筋が悪さをしているのではないかと田村さんは話す。「現時点での仮説として、筋肉が脂肪筋になると糖代謝に悪影響を及ぼす、と考えています」(田村さん)
 体は、皮下脂肪や内臓脂肪にエネルギーを蓄えるが、それ以外の臓器でも、エネルギー源として脂肪が蓄積される。脂肪組織以外の骨格筋や肝臓などの臓器にたまる脂肪を「異所性脂肪」と呼ぶが、その量が過剰になると、さまざまな障害を起こすのだ。もちろん、「脂肪筋」もこの異所性脂肪の一種だ。
 「食事で脂肪をとりすぎて、活動しない、つまりあまり歩かないような状態であると、脂肪がエネルギーに変わりにくくなります。脂肪細胞にためきれずに余って漏れ出した脂肪が筋肉にたまった、あるいは使われずにたまったのが、脂肪筋です(下イラスト)」(田村さん)
 脂肪筋では、脂肪が筋肉内で何らかの毒性をもたらし、糖を取り込むインスリンの効きを悪くすると考えられている。糖が血中でだぶつき、やがて糖尿病やメタボの悪化につながっていく。「やせメタボは、肥満とは別個に起こる現象です。男性では、体脂肪率が20%を超えたあたりから脂肪が漏れ出るようになり、インスリンの効きが悪くなることを確認しています」(田村さん)。
 骨格筋は、全身を動かす臓器であるとともに、人体の中で糖をグリコーゲンとして蓄える最大のタンクでもある。「骨格筋は、体重の約50~60%を占める人体最大の臓器ですが、この大きなタンクの調子が悪くなり、糖代謝がうまくいかなくなると、糖尿病になるだけでなく、動脈硬化や高血圧になることが明らかになってきています」(田村さん)
【脂肪筋とは】
筋肉の細胞の中に脂肪がたまると「脂肪筋」になる。骨格筋は、食事でとった糖をグリコーゲンとして蓄えるタンク。ところが脂肪筋では、たまった脂肪が毒性を発揮し、インスリンを効きにくくする。このため、糖をスムーズに取り込めなくなり、糖尿病が進む。これが、やせていても「メタボ」になる仕組みだ。
 田村さんは特別な装置で、脂肪筋を「すね」部分の筋肉で測定している。自分の筋肉が脂肪筋になっているかどうかを知りたくなるが、「残念ながら脂肪筋は外側からはわかりません。すね部分の見た目や触り心地でも、判断できません」(田村さん)。
 そこで、目安にしたいのが以下のチェックリスト。これまでの研究結果を総合し、「チェックが複数当てはまる人は、脂肪筋などが原因でインスリン抵抗性になっている可能性が高い」という。
〈脂肪筋チェックリスト〉
    * □ 血圧が高め
    * □ 中性脂肪値が高め
    * □ 血糖値が高め
    * □ 肝機能が悪い
    * □ 脂肪肝である
    * □ 歩く量が少ない(歩数1日5000歩以下)
    * □ 油ものが好き
    * □ 車を利用することが多い
3日間の油っこい食事と運動不足で脂肪筋が1.5倍増える
 前出のとおり、脂肪筋を作る原因となるのが「活動不足」と「高脂肪食」だ。
 これまでは通勤などで歩いていたが、リモートワークでめっきり歩数が減った、食事内容も偏っている、という人は「このような生活がどのぐらい続くと脂肪筋に変わってしまうのか」についても知りたくなるだろう。
 「実は、肥満していない若い男性を対象にした私たちの研究では、3日間脂っこいものを食べ、1日3000歩以下しか歩かない、という生活によって、脂肪筋が1.5倍に増え、インスリン感受性も低下してしまいました」と田村さんは言う(下グラフ)。
3日間の高脂肪食で脂肪筋が増え、インスリンの効きが悪くなった
50人の肥満していない男性(平均年齢23.3歳)に、3日間の普通食を、そのあと3日間の高脂肪食(炭水化物20%、脂質60%、たんぱく質20%)をとってもらい、その前後に脂肪筋量、骨格筋のインスリン感受性を測定した。高脂肪食による反応が大きかった群では、脂肪筋量が約1.5倍増え、骨格筋のインスリン感受性が有意に低下した。(データ:Am J Physiol Endocrinol Metab. 2016 Jan 1;310(1):E32-40.)
 また、「どのような人で脂肪筋が増えやすいか」を確かめた研究では、週1回以上運動しておらず、かつ、あまり歩かない人は、脂肪筋が増えやすいことがわかった(*6)。
 「普段からしっかり活動をしている人では、脂肪筋が作られにくいと言えます」(田村さん)。
 いかがだっただろうか。在宅のリモートワークで歩かない生活は、危ないとわかっていただけたと思う。ぜひ、リモートワークが続いても、活動を減らさずに、できるだけ歩くようにしよう。
*6 J Diabetes Investig. 2011 Aug 2;2(4):310-7.
 次回は、「歩かない、動かない」ことが「やせメタボ」だけでなく、総死亡リスクや認知症などさまざまな疾患リスクを高める要因になる、というエビデンスについても見ていこう。
(図版制作:増田真一)
田村好史(たむら よしふみ)さん
順天堂大学大学院 代謝内分泌内科学・スポートロジーセンター 先任准教授
順天堂大学医学部卒業。糖尿病専門医。