izumiwakuhito’s blog

あなたでしたらどう思いますか?

「君の仕事はお茶入れじゃない」その一言が必要だ

下記は東洋経済オンラインからの借用(コピー)です

なぜ女性リーダーが日本で生まれにくいのか━━。週刊東洋経済6月12日号(6月7日発売)では「会社とジェンダー」を特集。企業に残る根強い男女格差、海外と比べて遅れた取り組みについて、さまざまな角度から取り上げた。気鋭のジャーナリストが自身の実体験も踏まえ、日本の変わらない構造問題を説く。

本当に女性はリーダーになりたがらない?
日本企業には女性リーダーが少ない。
週刊東洋経済』6月7日発売号の特集は「会社とジェンダー」です。書影をクリックするとアマゾンのサイトにジャンプします。紙版はこちら、電子版はこちら
令和2年版『男女共同参画白書』(内閣府)によれば、管理的職業従事者に占める女性比率は、日本で14.8%。アメリカ40.7%、英国36.8%、ドイツ29.4%、フランス34.6%と、主要先進国が3~4割なのと比べ、その低さが目立つ。アジアでも韓国14.5%を除けば、フィリピン50.5%、シンガポール36.43%、マレーシア24.6%と、いずれも日本を上回る。
筆者は20年余、ジェンダー(男女の社会的な性差)と、企業を巡る課題を取材・執筆してきた。どうしたら日本企業で女性リーダーが増えるのか。この問いを繰り返し耳にしてきた。
思い出すのは大学生のときに受けた社会学の講義だ。担当教授にしつこく言われたのは、「レポートに、安易に解決策を書くな」ということ。真意は「君たちが簡単に思いつくような解決策は現場ではすでに試している。そんなに簡単に解決するなら深刻な問題にはなっていない」ということだ。
思い付きの解決策ではなく、構造を見るべきという指摘は、ジェンダー格差にも当てはまる。最大の問題は、性差別の歴史や実態を知らない人が意思決定層にも多いことである。女性に対する支援を、「女性優遇・男性差別」と捉える人は現状を中立と思っていて、差別構造が見えていない。
「女性がリーダーになりたがらない」という説明もよく聞く。環境要因の問題が大きい中、自己責任を説いても効果は薄い。本気で女性リーダーを増やしたければ、過去から現在に続く自社の人材マネジメントについて、「性差別」「ジェンダー・バイアス(偏見)」を切り口に見つめ直すべき。日本企業に女性リーダーが少ないのは、管理職の年次で必要な経験を積んだ女性の数自体が少ないからだ。管理職候補が少ないのは結婚や出産による退職のみならず、そういう女性を採用してこなかった企業側の責任がある。
中には、技術系の開発部門のように理系大学院卒相当の知識が必要で、そもそも応募者に女性が少ないこともある。こうした分野のジェンダー・ギャップを解消するためには、学校や家庭でのジェンダー・バイアスも考慮しつつ、長期的な取り組みが必要で、企業だけに問題があるとは言えない。
「差別」という言葉に抵抗を覚えるなら、それは歴史と事実を知らないからだ。その場合は『男女賃金差別裁判 「公序良俗」に負けなかった女たち』(明石書店)を読んでほしい。
原告は女性労働者たちで被告は彼女たちの雇用主だった住友電気工業住友化学。労働やジェンダーに詳しい法律家が弁護団となり、間接差別の問題を浮き彫りにし、和解を勝ち取った意義深い事例である。本書の働く女性たちの声を読めば、女性だけに適用される“30歳定年”など、現代の感覚では非常識な慣習に驚くはずだ。ちなみにどちらの企業も現在では「ダイバーシティ経営」を掲げている。
実際に訴訟まで至っていない、小さな性差別は数えきれない。
私が就職活動をした1996年のこと。就職に強いとされる大学の3年生で、男子学生の多くが銀行や保険会社など金融系企業の就職内定を得ていた。獲得した内定先を滑り止めにしつつ、商社やメーカーなどの採用試験を受ける人もいた。しかし、同じ大学・同学年でも、女子学生にそのような選択肢はなかったのだ。
当時の大手金融機関で女性総合職の採用は少なく、「今年は女性総合職を取らない」「男子百数十人、女子1人」なのはざらだった。同じ大学に女子学生が2割はいたから能力や専攻は理由にならない。
かつて「女性は事務職です」の時代があった
性差別的な採用は業界を問わず存在した。私が就職説明会に参加した不動産会社では、人事担当者が「女性は事務職です。男性は企画か営業です」と、参加した学生たちに面と向かって言った。私が「女性が営業を希望したらどうなりますか?」と質問したら、人事担当者は「女性は事務職です」と即答したのである。
その企業でペーパーテストを受けながら吐き気が込み上げてきた。能力や適性でなく性別で仕事内容を決められるのが嫌だったからだ。1986年の男女雇用機会均等法施行から10年後の話である。
とはいえ、私は幸運だった。探せば男性と同じ仕事・同じ賃金の就職先もあったからだ。私より10歳以上年上の女性弁護士は、東京大在学中「男子のみ」という求人票の山を見て絶望を感じ、企業就職を諦めて司法試験を受けたそうだ。日本企業が四大卒の女性を採用しないので、外資系を中心に試験を受けた人もいる。
もし、あなたの勤務先でもこうした過去があるなら、まずは真摯に反省してほしい。女性の役員や管理職が少ないのは、差別的なマネジメントの結果だと認めてほしい。そして長年、男性の補助と位置付けられた女性たちに、「時代が変わったから」と急に活躍を求めても、やる気がでるはずがないことも理解すべきである。
では、過去の人材マネジメントを反省し、今後は是正していくことを決めたら、女性リーダーは増えるのだろうか。
次に知っておくべきなのは家庭や社会の歴史だろう。かつての日本では、男性が外で働き、女性は家庭を守る、性別役割分担システムが広範に根付いていた。それが効率的な経済発展に役立つから税制も主婦を優遇した。私自身、多忙な会社員の父と専業主婦の母という家庭で育ったから、システムの恩恵を受けたと言える。 
ただし、今、2人の子どもを育てながら私が歩んでいるのは、母と父の人生を混ぜ足したような人生だ。子育てしながら男性と同じような仕事をして稼いできた。
夫婦共働きが主流の現在、家庭内の仕事を女性だけが抱え込んでいたら、職場で責任ある仕事を引き受けて、リーダーシップをとるのは難しい。男性も家事や育児を「お手伝い」ではなく、「自分の責任」として担う必要がある。これは日本が抱えるジェンダー・ギャップの中でも大きな課題だ。
日本では、6歳未満の子どもを持つ夫は、共働きでも76.7%の夫が家事をしておらず、69%の夫が育児をしていない。国際比較でも日本男性の家事育児参加の少なさは際立つ。6歳未満の子どもを持つ人を見ると、米英独仏など先進国で家事育児をするのは、女性が5~6時間なのに対して、男性は半分の時間を費している。一方、日本は女性が7時間半、男性が1時間半弱と、ジェンダー間の格差が大きい(「令和2年版 男女共同参画白書」より)。
仮に職場での性差別がなくなったとしても、家事育児などの無償ケア労働の差が大きいままでは、女性リーダーを増やすのは難しい。男性も家事育児を担える働き方になること、つまり家庭内のジェンダー平等を目指す必要がある。
男性上司や先輩、夫の意識を変えるべき
最後にひとつ実践可能なエピソードをお伝えしておく。
1997年のちょうど今ごろ、新入社員だった私は、職場で来客にお茶を入れた。すると、3~4歳上の先輩に呼ばれて注意を受けた。お茶がまずかったからではない。
「君の仕事はお茶入れじゃないから。給料が高いから、もっと頭を使って仕事して。おもしろい雑誌を作るのが君の仕事」
当時この先輩は「ジェンダー」という言葉を知らなかったと思う。それでも彼の言葉はジェンダー中立だった。このとき、私は自分の仕事がいったい何なのか、肌で理解した。「やっぱり女の子の入れたお茶は美味しいなあ」と言われていたら、私は今こういう仕事をしていなかっただろう。
つまり、上司や先輩、そして夫たちの意識と行動変容こそがカギなのだ。
治部 れんげ(じぶ れんげ)
Renge Jibu
ジャーナリスト
昭和女子大学現代ビジネス研究所研究員・同大学女性文化研究所特別研究員。