izumiwakuhito’s blog

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新宗教団体2世信者たちの葛藤 オフ会が居場所、難民化の懸念も/エホバの証人/元歌手の桜田淳子氏統一教会

下記はAERAdotからの借用(コピー)です

 かつて輸血拒否や霊感商法などが社会問題となったいくつかの新宗教団体。その陰には、信者の子ども──特異な境遇に置かれた2世の存在がある。彼らの心の内側に迫った。

*  *  *
 東京都内で訪問介護事業に携わる40代の女性介護福祉士。誠実な人柄で、同僚からの信頼も厚い。

 彼女は、輸血医療を拒否する教理を持つことで知られるキリスト教新宗教団体「エホバの証人」の2世だ。

 生まれたのは東北地方の町。生後間もない頃から、熱心な信者である母親の訪問伝道に伴われ、保育園や幼稚園には通わせてもらえなかった。当時の自分を「親の付属品」と表現する。

「目に見えない檻の中に隔離されたような環境。一般社会との接点は、小学校に入るまでなかった」

 小学校でも、苦難が待ち受けていた。

「同級生の家に布教に行くと、翌日、学校で『昨日何しに来たの?』とからかわれた」

 一方で「教団の中は、ある程度居心地がよくて温室のよう。喧嘩もほぼないし、孤独ではなかった」と懐かしむ。

 最も嫌だったことをこう打ち明けた。

「10代になってからも、親に反抗すると下着をおろして鞭で打たれた。逃げようとすると、馬乗りになって打たれる。屈辱的だった」

 彼女が受けた「懲らしめ」の道具は、革のベルトや木製ハンガーだった。エホバの証人の家庭では、靴ベラや布団たたき、竹製の定規などが鞭として使われたという。

 中学校卒業後は通信制高校に入り、開拓(伝道)奉仕する道を選んだ。教団の出版物などで繰り返し「進学よりも開拓することが重要」と教え込まれていたためだ。通信制高校への進学を「宗教上の理由」と自ら説明した三者面談で、担任はあきれていた。

 通信制高校もスクーリングに通えず中退し、彼女の学歴は中卒のままだ。

 その後、成人を迎える頃になって、教団内での地位が高い男性とのトラブルから組織の男尊女卑体制に直面し、脱会する。脱会直後、母親から届いた手紙には「滅びの道を行くの?」と書かれていた。

 脱会したものの、自立への第一歩となる仕事探しで困難に直面する。

 高等教育を否定してきたエホバの証人には低学歴の2世が多い。パートタイムの仕事に就いて布教活動に専念することが奨励されており、脱会して生計を立てるために働こうと思っても、なかなか就職先が見つからないのだ。

 怪しげな教材会社、スナックのホステス、事務職など様々な職を経た後、上京する。「訪問伝道で他人の家を一軒一軒訪ねることに慣れていたので、営業ならできるかもしれない」と、保険の営業に12年従事。その時期に現在の夫と知り合い結婚し、産休と育休の間に介護福祉士資格を取得した。介護職に就いて7年、現在は管理者兼サービス提供責任者という要職に就く。

●鞭を当てない普通の子育てやり方がわからなかった

 子どもの頃にエホバの証人の2世の友だちがいた夫には教団への偏見がなく、夫の両親とともに彼女をすんなり受け入れてくれた。「彼は私の自由や意思を尊重してくれる」と感謝する。ただ、夫に深い話はしていない。「同じ2世でなければ理解し難い面があるのでは」と思うからだ。

 子育てでは、鞭を当てない普通の育て方がわからず途方に暮れた。部活や習い事といった経験もしてこなかった。「放任、ネグレクトに近いかも」と、冗談めかして子育てを振り返る。それでも、子どもをのびのびと育てられたことで気持ちが楽になったという。

 組織にいた当時の自分を「可哀想に思う」と憐れむ彼女は、今も教団にいる2世に、こう語りかけた。

「教団の中にいると選民意識に洗脳されるが、それは誘導されている思考回路だと気づいて疑問を持ってほしい」

 亡くなった父親は信者にならず、彼女の受け皿になってくれたという。

「父がいてくれたから辞める決意をすることができた。存在が救いだった」

 難病を患った母親は、信仰を持ったまま輸血を拒否して亡くなった。

「よりどころとしての信仰を持ったままのほうが良い人もいる。それぞれの選択だが、そのための材料は与えるべきだ」

 教団組織の存続には反対していない。そこにはコミュニティーや生きがいといった様々な意味合いがあり、母親にとっては文字通り「命をかけた信仰を貫く場所」だったからだ。

 教団で学んだことの全てがデタラメや無意味なものだったとは捉えていない。2世としての経験は「大概のことには耐えられる」精神的強さを彼女に与えた。そして自身も親になったことで、「子どもを救いたい一心だったのだろう」と、当時の母親の気持ちが理解できた。

 彼女は最後にこう語った。

「もう一度同じ境遇に生まれたくはないが、同じ親のもとには生まれたい」

 1980年代ごろから、一部の新宗教団体による正体を隠した勧誘やマインドコントロールを用いた教化・金銭収奪などが社会問題となり、「カルト(※)」と指摘され始めた。この時期のメンバーが親の世代となり、生まれた時から団体の教えを教育されてきた2世が、生きづらさを訴えている。

「旧統一教会(現・世界平和統一家庭連合)」のある2世は、親からこう言われて育った。

「お前は本来、私たちの子ではない。お父様(教祖)の血統を引く神の子であり天からの授かりもの」

 元歌手の桜田淳子氏(60)が参加したことで騒動となった92年の合同結婚式には約3万組が参加、3年後の95年には36万組の信者が合同結婚式を挙げた。この頃の夫婦のもとに生まれた子どもが成人を迎えつつあり、結婚や恋愛などが絡んだ2世問題の噴出が懸念されている。2世にとって、信仰を否定することは自身の出生への否定につながりかねないからだ。

 カルトの諸問題を研究する「日本脱カルト協会」は、「幸福の科学」2世の俳優・清水富美加千眼美子)氏の出家騒動の最中の昨年3月、「『2世問題』にはデリケートな対応が必要」との見解を示した。

 カルト脱会者の支援施設(福島県)で中心となっている日本基督教団白河教会の竹迫之(いたる)牧師のもとには、2世からの相談が数多く寄せられている。自身も旧統一教会の脱会者だ。

●積み立てた大学の学費まで母が献金してしまう

 宮城県内の女子大で講師を務める竹迫氏は数年前、旧統一教会の2世である女子学生から「母が積み立てた学費まで献金してしまう。このままでは、お金がなくなり大学を辞めなくてはならなくなる」と相談を受けた。福祉に詳しい元教え子と引き合わせ、社会福祉協議会奨学金など使える制度を探してお金をかき集めた結果、女子学生は大学を辞めないで済んだ。

 既存のセーフティーネットで、カルトや新宗教の2世問題をカバーすることは可能なのか。竹迫氏は、虐待の一類型として捉えることができれば、何らかの支援ができる可能性はあるという。しかし、表に出にくく、殴る蹴るといった目立った虐待があるわけではないことに加え、信仰の問題が絡むと外部からの介入は難しいのが現状だ。

「スピリチュアルアビュース(霊的虐待)のような新たな視点を児童福祉の分野でも持ってもらうことが必要です」(竹迫氏)

 公益財団法人国際宗教研究所宗教情報リサーチセンター研究員で、昨年『カルト宗教事件の深層「スピリチュアル・アビュース」の論理』(春秋社)を出版した藤田庄市氏は、「アビュースという言葉は日本語の『虐待』より意味が広く、絶対的な地位にある者が自分より弱い者に対して権威を濫用すること」と解説する。

 藤田氏によると、スピリチュアリティーは宗教に反応する心性や超自然的存在に影響を受けている感覚のことで、2世にとって核となるものだ。

「2世が悲劇的なのは、生まれた時から人間の精神作用をアビュースされているから普通になれない、立ち戻る規範がなくなってしまうことにある」

 脱会によって家族と断絶するケースも多く、その場合、生活基盤を失ってしまう。そのため、葛藤を抱えながら教団にとどまっている2世も多い。

 父親の理不尽な抑圧に耐えながら生活していた地方在住の旧統一教会2世の女子高生は、高校卒業直後に行われる合同結婚式への参加を迫られ、すべてを捨てて家出する決心をした。実行に移す直前、祖父から支援の申し出があり、東京の大学に進学。父親から離れることができた。

●オフ会で飛び交う教団用語「誰にも話せなかった」

 2世問題は、「居場所」「逃げ場」がキーワードだ。自分の居場所や逃げ場を見つけられない2世の「難民化」が懸念されている。

 昨年7月、二つの教団の2世の集まりを取材した。エホバの証人の2世約100人が集う大規模オフ会「夏オフ」では、談笑する参加者の間で「どこの会衆?」「私も排斥されました」「王国会館売却だって」と、互いにしか通じない教団用語が飛び交った。

 旧統一教会2世が主催したイベントでは、それまでツイッター上で会話していた十数人が、初めて顔を合わせて語り合った。「今までこんなこと誰にも話せなかった。誰にも分かってもらえなかった」と堰(せき)を切ったようにあふれ出る感情を共有する2世たち。

 同じ境遇に生まれ、同じ葛藤に苦しんだ2世同士の交流は、彼らに共感と癒やしを与えていた。

 悩みを抱え込む2世にとって、家族の中でその団体の教えに染まっていない人の存在や、信頼できる人からの理解や支援、そして同じ境遇に生まれた2世との交流など、安心できる「場」の確保が何よりも重要だ。

 旧統一教会の30代の現役2世からは、興味深い話を聞いた。教団から離れている2世と教団や親に従順な2世が集うイベントを何度か企画しているというのだ。1世の場合、脱会者と現役信者が語り合うことは、まずありえない。しかし、同じ境遇に生まれた2世同士では、それが可能なのだ。

 この交流オフ会は、悩みを抱える現役2世の居場所にもなっている。

「教会には行かないけど2世の集まりには行きたいという人は多いんです」

 こうした交流オフ会での2世の動きについて、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)に見解を尋ねると、「新宗教の2世を特別視し、特有の問題があると決めつけることは、平穏な生活を送っている信仰を持つ多くの人々に対する差別を生みかねません。そのようなことが起きないような社会作りにご理解と協力を頂ければ嬉しく思います」との回答があった。(ジャーナリスト・鈴木エイト)

(※)カルト 本来は「儀礼・崇拝・熱狂」などを意味する言葉。欧米では、精神操作を用いてメンバーに反社会行為を行わせる団体を「破壊的カルト」と呼ぶ。日本脱カルト協会は「カルト」の定義を「組織に依存させて活動させるためにマインドコントロールを用いて個人の自由を極端に制限する全体主義的集団、人権侵害の組織」としている