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がん遺伝子狙い撃ち、薬の弱点補うナノマシン 実現

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 がん遺伝子を狙い撃ちにする新しいタイプのがん治療ナノマシンが開発された。抗がん剤の弱点をカバーするナノマシンである。ナノ医療イノベーションセンター(iCONM)が、東京大学耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学および同工学系研究科バイオエンジニアリング専攻との共同研究により実現した。
 今回の成果は、2021年2月24日に米国化学会発行のナノ専門誌『ACS Nano』で発表。筆頭著者である東京大学耳鼻咽喉科学・頭頸部外科学の柴崎仁志氏らが、同20日に実施したオンラインセミナーでその詳細を報告した。
実用化されづらい薬剤の効果引き出す
 かねてナノ医療イノベーションセンターは「体内病院」を目指し、診断や治療などの医療機能を人体内で完結させる技術開発を進めている。武器になるのは、30n~100nmというウイルスサイズのカプセル。「スマートナノマシン」と呼んでおり、あたかも機械のように体内でふるまう特徴がある。
イメージ画像(出所:Getty Images)
 具体的には、高分子化合物が水をはじく疎水性の部分と水になじむ親水性の部分を持つことで自己組織化する原理を応用したものである。泡状の「ミセル」と呼ばれる形状になる際に、その内部に薬剤などを封入できる。
 これまでは、このナノマシンを固形がんの治療に応用してきたが、今回ターゲットとしたのはがん遺伝子。がんを引き起こす「c-Myc」という遺伝子で、c-Mycに変異があると細胞内でたんぱく質が過剰に作られ、際限ない細胞増殖につながる。がん遺伝子の中でも重要なものだ。
 柴崎氏らは、c-Mycの働きを2010年に開発された「JQ1」という薬剤により抑制することを目指した。ただし、腎臓から速やかに排泄されるため、体にとどまりづらい。そのため抗がん剤として実用化しづらい。水に溶けないのもネックで、持続的にがんへの効果を保てないという弱点もあった。
 この壁を乗り越えるために活用したのがナノマシンの技術というわけだ。JQ1の構造を一部変化させたJQ1ハイドロダイド(JQ1H)に変化させた上で、リンカーを介してナノマシンを形成する高分子化合物に結合させた。すると、高分子化合物ごとミセルの形状になり、ナノマシンの内部にJQ1Hを封入できる。
体内の病巣に薬剤をピンポイントで届けるナノマシン(出所:iCONM)
 がんにおいては周囲の血管が未熟であるために、血管壁の隙間が大きい。血液中に入ったナノマシンは浸透しやすいがん細胞の周囲に集中。ナノマシンはがん細胞に取り込まれ、がん細胞ならではの酸性度の高さに反応して内部で薬を放出する。薬はがん細胞以外に効果を示しづらいので副作用も少なく安全性が高められる。
 柴崎氏は、ナノマシンが確かにがん周囲に集中することを動物実験により確認。抗腫瘍効果が発揮されることも確認した。肝臓や腎臓への副作用もナノマシンにすることで出づらくなると確認できたとしている。
がん遺伝子の多寡でナノマシンを使い分け
 さらに、柴崎氏は、高分子化合物からJQ1Hをすばやく放出するファストリリース(FR)と、ゆっくりと放出するスローリリース(SR)の2種類を作り出した。意外だったのは、c-Mycが高いがんでは、FRタイプが効果を発揮したのに対して、c-Mycが低いがんでは、SRタイプが効果を発揮するという違いが見られたことだという。
 柴崎氏は「c-Mycが高いがんでは、速やかな薬剤放出ががんの細胞死を誘導する。それに対して、c-Mycが低いがんでは、持続的な薬剤放出が効果を示し、がんの細胞死が誘導される」と説明する。
 がん遺伝子の発現量に応じて、最適な薬剤放出パターンを選べるのはこれまでにない標的治療を可能にするものになる。プレシジョンメディシンと呼ばれる考え方では、がんの遺伝子に合わせて治療を行う。今回の研究に携わるiCONM主幹研究員の喜納宏昭氏は、「開発したドラッグデリバリーシステムでは、薬を素早く出したり、徐々に出したりと使い分けられる。がん遺伝子の程度の高い低いによらず、難治がんに効果的に作用可能になる」と展望し。