izumiwakuhito’s blog

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80歳男性がコロナ重症 長男は「苦しくないようにして」と言うが、孫娘は「自分が感染させた」と泣いて…

下記はヨミドクターオンラインからの借用(コピー)です

新型コロナウイルス感染症のケアに従事する救命救急センターの看護師が、家族内感染による影響で、「代理意思決定への支援がより一層難しくなっている」と語ってくれました。
 80歳の男性。妻、長男家族と同居しており、家族内感染した。長男の妻は症状が軽くホテル療養、孫は無症状だがPCR陽性で自宅療養となった。家族の中で、本人が最も重症であり、入院後すぐに人工呼吸器による治療が開始された。
> 妻と長男はPCR陰性だったが、濃厚接触者とされたため、家族への初回の病状説明は電話により行われた。長男から「ECMO(体外式膜型人工肺=体外循環で肺の機能を代替する機械)を使えないか」という質問があったが、患者の年齢や既往歴から適用ではないことが伝えられた。その後、 腹臥位ふくがい 療法(急性呼吸不全の患者に対する治療法の一つで、うつぶせにして人工呼吸療法を行うこと)など、ECMO以外の積極的な呼吸療法が行われたが改善せず、「昇圧剤をどこまで使用するか」「急変時に蘇生行為を行うか」などについて、家族に意思を確認しなくてはならない時期がきた。
> この時点で入院から2週間以上が経過しており、隔離期間を終了した長男が初めて面会に来院した。本人は薬により深く眠っているため意思疎通ができない状態であった。「人工呼吸器でできる治療は限界で、いつ何があってもおかしくない状態です」という担当医の説明に対し、長男は「苦しくないようにしてほしい」と話した。医療チームとしては、キーパーソンである長男のこの言葉は、緩和ケアへ移行するかどうかを決める重要な意見であった。看護師から「他のご家族も同じお考えですか」と長男にたずねると、「娘(本人の孫)は『自分が感染させてしまった』と毎日悔やんで泣いているし、母(本人の妻)は『何とか良くなる方法はないのか』と言っています」ということだった。さらに長男との話し合いを進めた上、積極的な治療を行わずに、症状などを和らげる緩和ケアに移行することにした。数日後、長男の 看取みと りのもと患者は亡くなった。
面会制限で顔を合わせる機会を奪われ
 新型コロナウイルスの家族内感染は、実際に多く起こっています。このケースから、家族内でも現実の受け止め方が違い、家族一人一人へ及ぼす影響は計り知れないことがわかります。重症者がいる場合、家族は自責の念を抱きながらも、本人に代わって、治療に関する「代理意思決定」をしなくてはならない局面にも立たされます。
 代理意思決定者になる人は「患者がこの状況下で何を望むか」を考えることが肝要ですが、家族の心情を考えると、冷静に考えることは非常に難しいと思われます。
重大な決定をする人への重圧
 代理意思決定には、家族一人一人が患者さんの状況を理解し、納得できるよう、丁寧に話し合いを重ねることが求められます。しかしコロナウイルスの流行によって、このケースのように、家族は濃厚接触者として隔離期間が設定され、重要な話も電話での対応にならざるを得ない状況が出てきています。長男の「苦しくないようにしてほしい」という言葉は、ようやく患者さんと面会できたからこそ、表現された言葉かもしれません。
 本来であれば精神看護を専門とする看護師やカウンセラーなどに、本人の妻や孫へのサポートを依頼することが望ましい事例でしたが、面会制限があることによって専門的サポートを行えないことももどかしかったと看護師は語っています。本来なら受けられるはずの、そうしたサポートがないまま家族が亡くなる経験をすることで、妻や孫の自責の念をさらに強くしてしまうことが懸念されました。
 家族のそれぞれの思いを受け止めつつ、重大な治療方針を決めなくてはならない長男のことも心配したと言います。看護師が長男へ、「他のご家族も同じ考えですか」とたずねることで、それぞれの家族の思いの一端を垣間見ることはできましたが、それらに対して、「現状では適切なケアができなかったのではないか」と、この看護師は悔やみます。
コロナ流行下で問われる看護師の力
 新しい感染症のため治療法自体が確立しているわけではなく、「その時点で『効果的』と言われている治療や薬剤を試し、それを評価することの繰り返しだった」と、看護師は振り返ります。そのため、見通しが厳しいと思われても、緩和ケアに移行するかどうかの判断も難しく、今回のケースでも、医療チームのなかで「積極的治療の継続」と「緩和ケアへの移行」で意見が分かれたそうです。
 代理意思決定には、情報の共有やそれぞれの価値観の明確化などが重要ですが、それ以前に、家族などが代理で意思決定できる状況を整えるための支援が求められます。他の家族が異なる考えを持つ場合は、それぞれの精神面へのサポートも必要です。コロナのために以前のようなコミュニケーションがとれない今、家族をどう支えていくか、看護師の力が問われています。(鶴若麻理 聖路加国際大教授)